Column | センスに捧ぐ。


Dynamic DuoのGaekoがソロアルバムをリリースしたことを受けて書いた記事「Album | Gaeko – Redingray」を書く上で、HIPHOPLEのGaekoのインタビューを参考にしたのですが、その中で、アルバムの内容とは別にE SENSについても触れている箇所がありました。

ご存知の方も多いかと思いますが、今から約1年前、E SENSはそれまでレーベルの先輩であったGaekoと、俗に「Control大乱」と呼ばれる大きな摩擦を起こしました。当時の様子は過去記事に詳しく書いてありますので、ご存知ない方は以下のリンク先を上から順番にご覧ください。

 

今回Gaekoがインタビューで答えていた内容を翻訳しました。

今は連絡しあう仲ではありませんが、もっと時間が経てば、良かったこともたくさん思い出すようになるでしょう。摩擦も摩擦ですが、一緒に作った音楽や思い出が美しい記憶になればいいですね。実際、みんな立場の違いがあったじゃないですか。だから一方的なものではなかったと思います。誰もが最善のことをしても、どういうわけかあのように摩擦が生じて騒ぎになることもあるようです。今はそれぞれが良い音楽をしながら、自分の道を進んでいけばいいと思います。それが正しい道なのではないかと思います。今はみんなやりたい音楽ができる環境が整ったので、うまくやっていけたらいいですね。

(Control大乱は)大衆からしてみたら楽しいエンターテインメントだったんでしょう。当事者とは関係ないわけだし。だからもうちょっと時間が経てば、大衆はあの事件の明暗について話すのではなく、あの瞬間のエンターテインメントとして記憶していくでしょう。もちろん個人的には傷にもなったし、いろいろな感情を感じて、考えさせられた瞬間でした。とにかくラップする者の立場として、相手が僕をリングに引き上げたのだから「一回やってみるべきじゃないか」と思ってやりました。止める人もたくさんいましたよ。だけどそれを今になって「あのときよくやった」とも「悔やまれるな」とも感じたりはしません。もうとっくに終わった話だし、僕たちが行くべき道を行くだけでも時間が全然足りないんです。いつかあの事件は何らかの形として残るでしょう。韓国ヒップホップの歴史だとか何とか。歴史なんてものは、どうせ人間が書いたものですから。誰かが記録したことであって。

 

サムディとSwingsは、一応話し合いをしてなんとなく和解のような感じにはなったようですが、GaekoとE SENSはやはり全然ダメみたいですね。でもGaekoは前を見てるんですね。お互いに別の道を進んで、いつかいい思い出になればと。

それなのに、私のセンスちゃんったら!!!!!!!!

つい1ヶ月ほど前に書いた『Back In Time』のリリース記事に、「E SENSは性格的に難しい人だと思っているので、これで一安心だとも思っているわけではありません」と書いていた私。

予感的中♡

だなんて喜べるかい!!!!!

昨年、数年ぶりにアンダーグラウンドに帰ってきたE SENSは、メジャー生活によって自分を硬く覆った殻を打ち破るかのように振る舞い、その姿はまるで反抗期の少年のようでした。私の目から見て、E SENSがいくら『I’m Good』や『Everywhere』で肩の力が抜けた様子を見せても、無理しているようにしか見えませんでした。アンダーグラウンドらしい態度を取ることを意識しすぎているような、今が一番幸せだと無理に見せているような。

ステージでの悪い態度も、わざと悪くしているような。「メジャーでの栄光を捨て、自分に率直に生きている一本筋の通った人間」というイメージに対して、「俺はそんな立派な人間じゃないのに」というプレッシャーに完全に負けている感じがしました。

ツイッターのことを自分にとっての「便器」と呼ぶE SENSは、その言葉通り、ツイッターに文句や批判をいつもスッキリするまで垂れ流していました。掲示板のアンチの悪質な書き込みに対して「お前誰だ、ふざけるな」と返信をし、そのことをツイッターでも拡散させて。そして以前はあまりツイートしていなかったことについて「便秘だった」と表現しました。

天才だと思った。

ラッパーとして、これ以上ないくらいの比喩力。

だけど「便器」でどれだけ気性の荒さを見せつけても、捨てられていた雑種の仔犬を拾い、インスタグラムに写真を載せながら飼い主を必死に探し、最終的に連れて帰って育て始めたその姿こそが、E SENSの本質だと思う。

その犬をバナと名付け、「自分の知る生命体の中で最も自分に優しい」と言ったE SENS。ツイッターを通してファンから犬の飼い方を一生懸命教えてもらって、「どんな人間に対してもここまで神経を遣ったことがない」と言いながら大切にバナを育てるE SENSは、まるで初めて愛を覚えた野獣のようで、反抗期の少年は魔法が解けて本来の姿を取り戻しつつありました。

そして『Back In Time』で一旦過去を清算し、ついに初のフルアルバム『The Anecdote』も完成。一足先にアルバムを聴いたDeepflowに「ついに韓国の『Illmatic』が出たと考えていいでしょう」と言わしめるほどの名盤を作り上げたE SENS。その名盤を引っ提げて、ようやく大きな一歩を踏み出そうとしたところでした。

なのに!!!!!!

センスのアンポンタン!!!!!!! 

このたびE SENSに何が起こったのか知らない人でも、ここまで読めばだいたい察しがついたと思います。そうです。大麻2回目やっちゃいました。

待ちに待ったアルバムがお蔵入りするかもしれないことが一番残念です。長く寝かせてしまったら、サウンドにも歌詞にもフレッシュさがなくなって、結果的にお蔵入りになっちゃう。だから出すならすぐに出さないと。販売できないなら無料公開よろしく。どれだけ大好きなE SENSであっても、この際、本人の利益を無視して言います。無料公開よろしく。

ってか嘘だと言って!!!!!!

私の力作記事「Column | E SENS 『독 (毒)』 歌詞和訳&分析」の中で、色々と私が気持ち悪く語ってますが、その中で「ちゃんと謝罪をして反省をしたら、あとは復帰後にいい音楽で返していけばいい。そして二度と同じ過ちは繰り返さないこと」と書いてるんですね。同じ過ちを繰り返されちゃったら、心の行き場が見当たらなくなっちゃうんですけどね。

それにしても今『毒』の歌詞を読み返すと、E SENSは何も変わってないですね。歌詞に書いてある「俺はこんな奴だった」って内省の状態から、ひとつも進歩が見受けられません。それでも『毒』という作品が素晴らしいことも何ら変わりなく、読み返したら結局また感動しちゃいました。モーツァルトがどんな人でも、ビル・エヴァンスがどんな人でも、ゴッホもカラヴァッジョも太宰治もみんなアレだけど、作品が素晴らしいことは間違いないんです。

それからミュージックビデオにも改めて感動しました。監督、天才すぎるっしょ。この曲の良さを最大限に引き出して映像化している。演じるセンスちゃんも天才っしょ。こんな表情、ほかのどのラッパーができるって。

E SENSを好きな気持ちは変わらないです。だって私が好きなのは、E SENSという1人の人間ではなく、E SENSの書く歌詞だから。E SENSがラップするときの声、発音、抑揚だから。E SENSの声は韓国の宝。E SENSの弾ける発音は私の活力。E SENSの抑揚はどんな歌よりも美しいメロディ。だからE SENSがどこで何をしようが、私にとっては割とどうでもいいことなのです。

とにかくいい作品さえ届けてくれればいい。そのために、歩みを止めないでほしい。歩みを止めなきゃいけなくなるようなことはしないでほしい。『Back In Time』のリリース時、亡くなったお父さんに向けて「恥ずかしい息子ではありません、お父さん」とツイートしていたその言葉の意味を、もう一度よく考えてみてほしい。

 

センスちゃん。

自分自身を便器にはしないでください。汚した自分の尻は自分できっちりと拭いて、キレイな身体になって帰ってきてください。またファンに素敵なラップを聴かせるため、一日も早く帰ってきてください。それがあなたの使命です。私はこれからも何も変わらず、HI-LITEとか不汗黨に「本気の」浮気をしながらも、ここで静かにあなたのことを待っています。

 

Sakiko Torii
About Sakiko Torii
BLOOMINT MUSICの運営者である鳥居咲子は、幼少期よりピアノと音楽理論を学び、ロンドンに音楽留学をした。現在は音楽記事の執筆、ライブ主催、楽曲リリースのコーディネート、メディア出演など、韓国ヒップホップに関する様々な活動を展開している。著書に『ヒップホップコリア』。音楽以外に関するネタを集めた趣味ブログ『BLOOMINT DIARY』も運営中。別名ヴィヴィアン。
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