Column | Bill Evans


今回はこってこてのジャズについて書きます。

私は商業音楽の中でも、ジャズやブルースの要素を取り入れている曲が特に好きです。ですが、元をたどればジャズが好きなんです。ということで、今回は商業音楽ではなくて芸術に分類されるジャズのお話です。いや、ジャズも商業音楽に分類されるんですけど、現代ではより芸術性の高い音楽だということで勝手に芸術に分類してみました。

私の愛してやまない巨匠ビル・エヴァンスのご紹介をしたいと思います。

ほら、このピアノを弾く姿! 物憂げな音色が聴こえてくるよう……

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昔のジャズ・ミュージシャンにありがちな、ドラッグに溺れた人生でした。

ひとことで言うと「壮絶な人生」

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死の淵までピアノを弾きつづけました。

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そもそもジャズってどういう音楽? という人がいるかもしれないので、軽く説明します。といっても、歴史とかジャンル分けについてはWikipediaや専門サイトを読んでいただければと思います。私はあまりその辺の話には詳しくないので。それよりジャズの特徴みたいなことを解説しますね。っていうか、「ジャズとは何か?」と聞かれた時に歴史やジャンル分けの話をしたら、あまりに学術的過ぎますよね。

ジャズの一番の特徴は「即興演奏」です。普通、音楽には楽譜がありますよね。四分音符や休符などが記してあって、メロディも伴奏も譜面どおりに演奏しますよね。ところがジャズはコード(和音の動き)と基本メロディだけが決まっていて、あとはその場で作曲しながら演奏していくのです。だからプレイヤーによって全然違う楽曲のようにもなるし、同じプレイヤーでも演奏のたびに少しずつ違ったりします。

そこがジャズの凄いところ。つまり、メロディメーカーやアレンジャーとしての才能・技術がなければ永遠に弾けないんです。日本では音大のピアノ科を卒業していてもジャズが弾けない人はたくさんいます。あと、ほかの楽器のプレイヤーとの呼吸も合ってないといけない。曲の途中でリズムが変わったり、各パートのソロに入ったりするので。この部分をあと何回弾く? ここ盛り上げていく? なんて会話を目でしてたりします。

もちろん事前に「こんな感じで」ってだいたいのアレンジや進行は決まってるんですけど、その時その時のフィーリングで演奏する部分もかなり大きいです。私も昔ジャズピアノをやっていましたが、まあ下手なこと(笑) じっくりと編曲しながら作曲をしていく作業は得意だったけど、ピアノそのもののスキルが全然足りないので、頭の中で浮かんだものをその場で指で表現するのは本当に難しい!

そして私の尊敬するビル・エヴァンスの演奏はこんな感じです。

 

Waltz For Debby

 

Minority

 

当時、黒人音楽であるジャズを白人がやることは、黒人にとっては受け入れがたいことでした。なにより「白人にスウィング(ジャズのフィーリング)ができるはずがない」という偏見が強くあったようです。それにも関わらず、かの有名なカリスマ・トランペット奏者、マイルス・デイヴィスは、ビル・エヴァンスのハーモニーのセンスに惚れこみ、「いいプレイをする奴なら肌の色が緑色の奴でも雇うぜ」と言って雇ったそうです。だけどエヴァンスのドラッグ中毒があまりにひどくて、すぐに解雇されちゃったそうです。

次に紹介するのはマイルス・デイヴィスが作った『Nardis』という曲ですが、ビル・エヴァンスが作ったという説もあったりします。まあそれはただの噂だとして。めちゃくちゃかっこいい曲なので、ぜひ聴いてみてください!

 

Nardis

 

ジャズピアノを聴いてて一番しびれるポイントは、ピアノのタッチですかね。指の腹を使ってスタッカートをきかせる。指を鍵盤から離すときは空気を切るように。滑らかに弾いてはダメダメ! まるでドラムかのようにリズムを作り出しながら弾くんです。

それがいわゆるシンコペーション。シンコペーションとはリズムの種類のようなもので、前の小節と次の小節をタイで繋げたり、通常弱く引く部分を強く弾いたりしてリズムにおもしろみを持たせたりすることです。そういったピアノのタッチの音色やリズム感などで「お?」と思えるポイントが曲の中にところどころあって、そういうポイントが聴こえてくるたびに胸の真ん中あたりが「くぅ~!」ってしびれるのです。

ビル・エヴァンスのピアノは素人にも分かりやすいと思います。中には「エヴァンスのことが好きなのは素人だ」なんて言う人もいますが、第一線で活躍しているジャズピアニストはだいたいビル・エヴァンスの影響を受けてると思います。ディズニーソングなどの有名曲をジャズにアレンジしたり、ジャズには邪道と言われたエレピを取り入れたり、自分の演奏を多重録音したり、その時代としては非常に画期的なことに貪欲にチャレンジした人です。

 

いつか王子様が

 

ビル・エヴァンスの人生は文字通り、壮絶でした。ドラッグにおぼれ、最高のパートナーだったベーシストは交通事故死、そして実の兄も妻も自殺で失いました。

お兄さんと一緒にピアノ演奏について講義する映像があるのですが(DVDも出てます)、その収録のちょっと後ぐらいにお兄さんは拳銃自殺をしたそうです。そして奥さんは、ビル・エヴァンスに新しい女性ができて別れを告げた直後、電車に飛び込んで自殺をしたそうです。エヴァンスの心はボロボロに打ち砕かれ、そして身体もますますドラッグに蝕まれ、ステージで演奏中に卒倒してそのまま帰らぬ人となりました。

最後にご紹介するのは、自殺した奥さん、エレインに捧げた曲です。この曲を聴くと、悲しいというよりは心が洗われる気持ちになります。何かとてもキレイで純粋なものが自分の中に入り込んでくるようで、しっかり前を向いて生きていこうっていう気持ちになります。

ビル・エヴァンスのボロボロに打ち砕かれた心で演奏したピアノの音色は、その死から30年が経った今も私たちを癒してくれるのです。

 

B Minor Waltz (For Ellaine)

 

※別ブログ『BLOOMINT DIARY』に書いた「ニューヨーク旅行記:ヴィレッジ・ヴァンガード」も合わせてご覧ください。ビル・エヴァンスが『Waltz for Debby』などを録音したことで知られるジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」に行った時のレポです

 


 


Waltz for Debby


Everybody Digs Bill Evans


You Must Believe in Spring


Sakiko Torii
About Sakiko Torii
BLOOMINT MUSICの運営者である鳥居咲子は、幼少期よりピアノと音楽理論を学び、ロンドンに音楽留学をした。現在は音楽記事の執筆、ライブ主催、楽曲リリースのコーディネート、メディア出演など、韓国ヒップホップに関する様々な活動を展開している。著書に『ヒップホップコリア』。音楽以外に関するネタを集めた趣味ブログ『BLOOMINT DIARY』も運営中。別名ヴィヴィアン。
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