今年も韓国の注目ラッパーが集結!『SHOW ME THE MONEY』今シーズンの見どころは?

Written By soulitude / Sakiko Torii

2018年9月7日、韓国のケーブルTVチャンネル「Mnet(エムネット)」にて、人気ヒップホップ・サバイバル番組『SHOW ME THE MONEY』の新たなシーズンがスタートする。2012年に初回が放送されてから7回目を迎える今シーズンのタイトルは、『SHOW ME THE MONEY 777』。韓国では早くも賞金の増額、新たなシステムの導入、注目される参加ラッパーなどのニュースが連日大きな話題となっている。ここ数年の間、韓国のヒップホップ・シーンに莫大な影響を及ぼしてきた番組であるがゆえに、本稿では放送開始に先駆けて、同番組のこれまでの流れと今シーズンからの変更点、注目すべき参加ラッパーなどを紹介したい。

 


 

これまでのシーズンとその影響力

『SHOW ME THE MONEY』は、その始まりから話題と論争を同時に巻き起こした。2010年前後、韓国におけるヒップホップと言えば大衆的な人気を持つアーティストもいるにはいたものの、基本的にはコアなファン層を抱えるアンダーグラウンド中心のジャンルであった。当時はまだ商業的なヒップホップを追求するメジャー・シーンと、それとは相反する方向性を持つアンダーグラウンド・シーンの間にある程度の境界線が残っていたのだ。

そのような状況であったため、「ヒップホップ」をネタとした「オーディション番組」をMnetが企画しているというニュースが最初に出てきた時、ヒップホップ・ファンの間では当然のごとく懸念の声があがった。その一方で、シーンに新しい活気を吹き込んでくれるのではないかという期待の声が高まりもした。

期待と不安が渦巻く中で放送された初回シーズンの結果は、いまひとつといったところだった。番組自体の完成度や参加ラッパーのレベルといった観点からは盛り上がりに欠け、さらには番組側が現役のアンダーグラウンド・ラッパーに対して「アマチュアとして競ってほしい」と提案していたことも明るみになり批判もされた。しかしながら、初回シーズンで優勝を飾ったLocoが現在の韓国音楽シーンで大成功を収めている点を見ると、意味ある一歩だったと言えるだろう。

初回シーズンの優勝者、Locoのステージ

 

いささか盛り上がりに欠けた初回シーズンではあったが、この番組が持つ可能性にいち早く気付いたのがラッパーのSwingsだった。彼は当時すでにラッパーとして十分な成功を収めていたにも関わらず、翌年(2013年)のシーズン2で一般参加者として挑戦したのだ。そこから番組の雰囲気が変わり始めた。この番組に参加することは、ヒップホップらしい振る舞いからすると恥ずかしいとも思われていたのだが、Swingsの参加によってその壁が破られたのだ。Swingsが番組で知名度を上げて人気と成功を手に入れたその姿は、参加に迷っていた多くのラッパーに刺激を与えた。

その翌年(2014年)のシーズン3からは、プロ/アマ問わずスキルに自信のあるラッパーたちが我も我もと参加するようになったのだ。さらにシーズン3ではアンダーグラウンド・シーンで多大なるリスペクトを受けているIllionaire Records、そして韓国の“BIG3事務所”として知られるYGエンターテインメントがプロデューサー(審査員)として参加。これ以降、人気アーティストをプロデューサーとして起用するというのが同番組の定番スタイルとなった。また、たとえ優勝できなかったとしても、プロデューサーに才能を認められて有名レーベルとの契約につながった事例が重なったことは、アマチュアの参加者たちにとって大きな動機となった。

このように過去のシーズンにおける失敗点を省みながら、番組自体の完成度と参加ラッパーのレベルは底上げされていったのである。特にシーズン3以降は参加者のレベル向上に伴ってヒップホップ・ファンからの評価が高くなり、Bobbyをはじめとする多くのアイドル・ラッパーの参加、参加者の日常をカメラが追うドキュメンタリータッチな描写、バラエティ要素の強化などによって幅広い視聴者層を獲得することにも成功している。

シーズン3の優勝者、Bobby(現iKONのメンバー)のステージ

 

競争方式もシーズンを追うごとに多彩になっていった。サイファー、1対1バトル、ディス戦、トラック制作、ライヴ・パフォーマンスなど様々なステージを参加者たちはクリアしていく。プロデューサーはそれらを審査し、参加者とチームを組む。途中からはライヴ会場を訪れた観客や視聴者も審査に加わるなど、番組は終盤に向かうに連れて大衆を巻き込みながら盛り上がりを見せていく。

番組に起用されるプロデューサー(審査員)も、シーズンを重ねるごとに豪華になっていった。韓国ヒップホップを語る上で欠かすことのできない大物ラッパーたちであるTiger JK、Dynamic Duo、Simon Dominic、Tablo、Paloalto、Dok2、The Quiett、Verbal Jint、そして現在の韓国の音楽シーンで最も成功していると言えるZion.T、DEAN、Zico、Jay Parkなど、新旧のトップ・アーティストたちがプロデューサーとして番組の人気を牽引してきている。

競争方式や参加者はシーズンごとに変化を繰り返しているが、キャラクター構築とラップ・スキルの披露、刺激的なバトル、個人のストーリーを込めた歌詞など、ヒップホップやラップが一般大衆に受け入れられやすいポイントをうまくキャッチしながらそれを全面的に出しているという点は、全シーズンで共通している。この手法が通用したかどうかは、実際に番組内で制作された楽曲が音源チャートの上位を占めてきたという実績からうかがい知ることができるだろう。

シーズン5の放送当時の韓国のチャートTOP10。3位を除く9曲が同番組の中で作られた曲

 

アマチュア参加者の生存率が低くなったり、“悪魔の編集”と呼ばれるMnet特有の意図的かつ刺激的な編集、暴力的な歌詞、評価の公平さなどいくつかの問題や批判が生じたのも事実だ。しかし視聴率と話題性は、それらの声を黙らせるほど高くなっていった。

参加者にとっても、番組に出演することでキャリアの活路を開いたり大衆的な人気を得るチャンスになるため、参加するメリットは大きくなっていった。『SHOW ME THE MONEY』に対してネガティブな意見を述べてきたラッパーたちも一人、二人と考えを改めて参加するようになり、一度は忘れ去られた往年のベテランの再起や無名の実力派新人の発見など、ポジティブな結果も多く残すようになっていった。このように『SHOW ME THE MONEY』を通してアンダーグラウンド・シーンを中心に活動していたアーティストが知名度を上げ、メジャー・シーンとの交流も深まった結果、両シーンの境界線が薄くなったことも同番組がシーンに与えた大きな影響のひとつだろう。

シーズン5の優勝者、BewhYのステージ

 

このような『SHOW ME THE MONEY』の成功をきっかけに、Mnetは女性ラッパー同志が競い合う『UNPRETTY RAPSTAR』、高校生ラッパーを主役にした『高等ラッパー』など数々のヒップホップ専門TV番組を制作し、そのすべてを成功に導いた。他のTV局もこの流れに便乗し、ヒップホップを題材にした番組が次々に放送されるようになった。

この現象に対しては「韓国のヒップホップ・シーン全体がひとつのメディアに左右されるくらい依存性が高くなってしまう」という批判もあれば、「一般大衆にヒップホップが親しまれることでラッパーたちの活動範囲が広がる」というポジティブな評価もある。いずれにせよ、『SHOW ME THE MONEY』が2010年代の韓国ヒップホップを語る上で欠かせない存在となったのは紛れもない事実だ。

過去の全シーズンの優勝者たち。左上から右に向かってLoco、Soul Dive、Bobby、左下から右に向かってBasick、BewhY、Hangzoo

 


 

今シーズンからの変更点

先述の通り、これまでも『SHOW ME THE MONEY』の競争方式はシーズンを重ねるごとに変化してきた。そのため今シーズンでいくつかシステムに変更点があると聞いても、それはあまり驚くところではない。とは言え、その変化が番組の流れや参加者たちの成績に相当な影響を与えることは間違いないだろう。現時点で明かされている変更点の中で、次の注目すべき2点からは今シーズンの流れがある程度予想できそうだ。

まず1点目の注目すべき変更点は、番組のタイトルでも示されている「777(トリプルセブン)」というコンセプトだ。まるでカジノのギャンブルを連想させるこの数字は、「ベッティング・システム」の導入を象徴している。6月28日に公開された番組の予告動画では、昨シーズンの準優勝者であるNucksalがこの新システムの導入を知らせた。

どのようなやり方でお金をかけ、勝敗を決めるのかはまだ詳しく知られていないが、他のトレーラー動画で各プロデューサーが金額を入力している場面があることから、参加者間の競争にプロデューサーがお金をベッティングし、負けたほうはその金額を取られるというやり方ではないかと予想される。過去のシーズンでも、ただ単にラップ・スキルを競い合うだけではなく、バトルやコラボレーションの戦略なども重要な要素として扱われていたので、今シーズンでもラップ以外の部分でバラエティ的なおもしろさを取り入れようとしていることが考えられる。

Nucksalが知らせる新システムの紹介動画

 

もう1点の注目すべき変更点は、一次予選の方法だ。これまでのシーズンでは、数千人もの参加者が大きな体育館に並んで短いラップを披露し、それを人気ヒップホップ・アーティストである審査員(プロデューサー)たちが評価していた。この一次予選で合格者が審査員の手によって首にチェーンを掛けてもらう場面は、『SHOW ME THE MONEY』の見どころのひとつでもあった。この特有の一次予選がなくなったことも大きな変化だ。

シーズン1で1,200人程度だった志願者は毎年増加し続け、昨年のシーズン6では実に初回の10倍となる12,000人以上が参加したという。このような志願者の急増から、現場で少数のプロデューサーが審査を行うことは無理になったため、今回からはこのプロセスを省略したと思われる。その代わり今年は6月7日から7月7日までの1か月間、インターネット上で志願を受け付けた。

これまで同番組の一次予選では、緊張感の高まるオーディションの模様を見せる傍らで、有名ラッパーやアイドル・ラッパーなどの意外な参加者、新星の実力者の紹介、独特な参加者による笑えるエピソードを披露する役割を果たしていた。この一次予選が無くなったことで最初からレベルの高い参加者のラップを聴けることが期待できると同時に、レコーディングはうまくてもライヴの技術が弱い参加者が合格してしまっている可能性もある。いずれにせよ、1~2話は過去シーズンとはだいぶ違った展開になるということは間違いないようだ。

それ以外の大きな変更点としては、賞金総額が2億ウォン(約2千万円)と大幅に増加されたことが挙げられる。これは同番組がこれまで成功を重ねてきたことの結果だと思われる。昨シーズンの賞金はその半分である1億ウォンだった。今回から取り入れられた「ベッティング・システム」により、活用できる金額がより大きくなったという意味もあるだろう。

シーズン6の一次予選の様子

 


 

今シーズンの主要な参加者と見どころ

今シーズンのプロデューサー(審査員) ※番組公式Instagramより

 

いくら『SHOW ME THE MONEY』が芸能バラエティ番組にカテゴライズされているとは言え、あくまでもラップとヒップホップを中心に制作される番組であることに変わりはない。そのため音楽そのものに対する期待値も、当然ながらかなり高い。音楽への期待とは、つまり参加者への期待だ。今シーズンもすでに複数の有名ラッパーたちの参加が明らかになって話題を呼んでいるが、その中でも特に活躍が予想される注目ラッパーを何名かピックアップして紹介したい。

まず、今シーズン最高の大物と言われているのがMKIT RAIN RECORDSのnaflaLoopyだ。この2人のラッパーは、2016年の初頭にアメリカ・LAから韓国に渡ってきて、レーベルMKIT RAINを立ち上げてその年の大型ルーキーとなった。その後も多くのシングル、EP、そしてレーベル・コンピレーション・アルバムなどを発表して人気を獲得。攻撃的なラップをするnaflaと、力の抜けたフロウが売りのLoopy。この2人の実力はすでに実証済みと言っていいが、それをコンペティションの中でどのように生かしていくのか楽しみである。

そしてHi-Lite Records所属のReddy、Indigo Music所属のKid Milliなども要注目の参加者だ。カジュアルなスタイルが売りのReddyは、最近日本の有名ラッパーSKY-HIとコラボレーション・トラック『I Think, I Sing, I Say』を発表して話題になったばかりだ。派手なラップ・スタイルと個性的なキャラクターの持ち主であるKid Milliは、昨年Indigo Musicの創立メンバーとして合流し、今年リリースした1stアルバムも高い評価を受けている。

左からnafla、Loopy、Reddy、Kid Milli

 

過去のシーズンでの活躍が功を奏してレーベルと契約するに至り、現在も活発に活動しているラッパーの再挑戦も目立つ。Ambition Musikのキム・ヒョウン、GHOOD LIFE CREWのSUPERBEEがその代表例だ。シーズン3で独特なラップを披露したことが話題になったDboNew Wave Records)、そしてシーズン3、4に参加し、今はLoopyやnaflaと同じMKIT RAINに所属しているOwen Ovadozも参加する。前シーズンとは違い、現在はレーベルに所属して活躍している彼らがどのような違った姿を見せられるか、再挑戦の意義を証明できるかも大きな見どころだろう。

左からキム・ヒョウン、SUPERBEE、Dbo、Owen Ovadoz

 

Hi-Lite Recordsの代表Paloalto、Ambition Musikの代表The Quiettとその所属アーティストであるCHANGMO、VMCの代表Deepflowとその所属のNucksal、Just Musicの代表Swingsとその所属のGIRIBOY、AOMG所属のCODE KUNSTがプロデューサー(審査員)として参加すると同時に、Reddy、Sway DYunB(以上Hi-Lite Records)、キム・ヒョウン(Ambition Musik)、ODEE(VMC)、Osshun Gum(Just Music)など、その所属アーティストが参加する点も興味深い。GIRIBOYのクルー「宇宙飛行(WYBH)」に所属するKid Milli、CHOILBOLNLも参加する。

これまでのシーズンでは、自分の所属するレーベル以外のプロデューサーとチームを組んで珍しいコラボレーションを披露することが多く、ファンにとっては『SHOW ME THE MONEY』だからこそ見れるような楽しい共演だった。今回は一体どんな珍しい組み合わせができるのか、非常に楽しみである。

『SHOW ME THE MONEY 777』のプロデューサーによるサイファー動画

 

しかしラッパーやレーベルの間には、楽しくて良好な関係だけが築かれているわけではない。例えばHi-Lite Recordsとトラブルを起こしたことのあるSimba Zawadi、仲間のmyunDoと一緒にMKIT RAINをディスしたことのあるSUPERBEE、DeepflowをディスしたJUSTHISのレーベルメイトであるKid Milliなど互いに気まずい関係も珍しくない。このような微妙な関係が、競争の中でどのように影響するかも気になるところだ。

この他にもまだ注目すべき参加者がいくつかいる。例えば10年近くの長きにわたって非常に荒くてワイルドなハードコア・ラップをしてきたベテランのChaboomの参加は、全くもって意外であった。『Korean Hiphop Awards 2018』で注目の新人として抜擢されたEK、DAMNDEF、MOLDY、それからZENE THE ZILLAを含めたYoung Thugs Clubのメンバー全員、pH-1、Coogie、Changstarrなどの注目株、Osshun Gum、Bully Da Ba$tard、CHIN CHILLA、H2ADINなど『高等ラッパー』出演者たちの参加も知られている。

そして現時点ではまだ計り知れない、全く新しい新星が注目を浴びて這い上がってくる可能性も大いにある。今シーズンで新たに発見される名もなき新人は、一体どんなラッパーなのだろう。9月7日の放送開始が待ち遠しくて仕方ない。

『SHOW ME THE MONEY 777』の予告動画

 

writersoulitude / Sakiko Torii

soulitude / ポピュラーミュージックを専門とするライター。日韓の両国で記事執筆、歌詞や記事の翻訳、音源の流通などの仕事をしている。多様なメディアを通じて日韓の音楽シーンの架け橋となるべく活動中。Sakiko Torii / BLOOMINT MUSICの運営者。韓国ヒップホップ・キュレーターとして執筆、ライヴ主催、音源/MV制作サポート、メディア出演など多方面に活躍中。



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