ライブレポート/Jvcki Wai – Enchanted Propaganda リリースパーティー

Written By soulitude

7月12日、Indigo Music(インディゴ・ミュージック)所属の女性ラッパー・Jvcki Wai(ジャッキーワイ)のアルバムリリースを記念するパーティーが開かれた。

彼女の1stフルレングス・アルバム『Enchanted Propaganda』は、パーティーの一週間前となる7月6日に発売された。この作品は彼女がIndigo Musicに合流してから発表した初めてのソロ作品で、6月にリリースされたIndigo Musicのコンピレーション・アルバムに続いて活発な創作活動を行っているため、今回のパーティーも注目を浴びていた。

パーティーは韓国ヒップホップの中心地である街・ホンデで一番ホットな「THE HENZ CLUB」で開催された。つい最近3周年を迎えたばかりの同クラブは、E SENSが所属するBANA(Beasts And Natives Alike)やDJクルーのDEADENDなど韓国内のアーティストだけでなく、Skrillex、Yaeji、Masego、A-Trakなどアメリカをベースとして活動しているアーティストや、Budamunk、DJ Mitsu The Beatsなど日本のアーティストまで有数のアーティストがプレイして名声を築いてきたスポットだ。

パーティーの入場は夜10時から始まり、人がだんだん集まる間、DJプレイが続いた。DJラインナップにはKeith Apeの『It G Ma』のプロデューサーでもあり、MAISON KITSUNÉのコンピレーション・アルバム『Kitsuné Afterwork, Vol 1』でKOHHとのコラボが日本でも話題になったJuniorchefをはじめ、普段からJvcki Waiと交流があるNeighborkid、Young Jerrys、Doberman、AMBIVALEN、Lily the Machinegunが名を連ねた。ゲストとしては最近独特のキャラクターをアピールしながら注目度が上がっているラッパー・Uneducated Kidが参加した。

夜中の1時、観客がクラブのバイブスに慣れてきた頃、Jvcki WaiとゲストのUneducated Kidが一緒にブースに登場した(クラブの構図上、THE HENZ CLUB ではDJブースの中でラッパーが一緒にライブを行う)。特有のピンク色の髪の毛、その上にかけたゴーグル。熱狂して大騒ぎとなったオーディエンスの中でも、しっかりと彼女のことが目に入った。熱い声援の中でUneducated Kidは『돈벌러가야대(金を稼ぎにいかなきゃ)』と『전쟁(戦争)』を披露した。『전쟁(戦争)』においてはその2日前に発表されたばかりの楽曲であるにも関わらず、会場はパワフルなフックを大合唱して盛り上がった。Jvcki WaiはDJテーブルの上に立ち上がり、会場全体がジャンプした。ゲストの最後の楽曲は二人のコラボ・トラックである『Amazing』だった。Jvcki Waiは楽曲が終わったら「みんな、ちょっと後で会おう」との挨拶を残し、またDJタイムが始まった。

2時になって再び登場したJvcki Waiは、観客と簡単な挨拶を交わすとすぐに代表曲の『Anarchy』を歌い始めた。Jvcki Waiの姿を撮ろうとするスマホと興奮で高く上げられたそれぞれの手が混ざり、視界はほとんど確保できなかったが、その熱狂的な雰囲気だけははっきり感じられた。ファンたちはマイクを持っているJvcki Waiよりも大きい声を出す勢いで彼女の歌に合わせて歌い、彼女もその声援に応えるように天井に手を当てて前の観客により近づいてきたりした。

その後のMCも印象的だった。「ここに私がIndigoに入る前からファンだった人はどれぐらいいる?」と尋ね、ファンたちがあちらこちらで答えたら、「こいつ(Uneducated Kid)や私がこんなにうまくいくとは誰も思ってなかったんだろう。でも、もう君たちがどこで私の音楽を聴いてても全然恥ずかしくなんてないよ!」と、無名時代から自分を支持してくれたファンへの感謝の気持ちとプライドを示した。

そして今回リリースされたアルバムの3曲目のトラック『dOgMa』の前奏が流れた。THE HENZ CLUBの隅から隅までを通りまくる赤いレーザーの光線、「私の人生の真理、鏡に映った両目の輝きが、すべての真実」という意味深い歌詞、そしてすぐにでも爆発しそうな会場のエネルギーはひとつになり、どうにも表現できないような雰囲気を醸し出した。次の楽曲は今回のアルバムのタイトル曲である『Enchanted Propaganda』だった。オートチューンがかかった、朦朧としつつも力のあるメロディを、皆が魔法にかかった(enchanted)ように歌っていた。会場は曲名通りのバイブスで溢れた。

次のMCでは自分が今の成功にたどり着くまでのことを語った。売れもしないような音楽をしながらアルバイトも散々やっていた過去と比べ、今はアルバイト何か月分の給料を一日で稼げるようになったということ。お金のために音楽をやってきたわけではないが、実際に「クソ気持ちいい」という感覚を覚えたとも言っていた。その流れで最後は「最近のラッパーって何でみんなお金の話ばかりなんだろうって不思議に思っている人も多いらしいけど、答えはこれだぞ」と告げ、次の楽曲のビートが流れた。

そのビートは今回のアルバムの9曲目のトラックで、アルバム内でも重要な意味がある『Capitalism』という楽曲だった。「人間は金、欲心は金、商業は金、利益は金、愛は金、自然は何」という歌詞は露骨ながらも明確に資本主義(Capitalism)の心臓を打ち抜いている。さらに盛り上がった会場は、Jvcki Waiのビジュアルと狂信者のようなオーディエンスの熱狂から、まるでカルト集会のように見えるほどだった。

いよいよ熱いライブが終わり、DJのプレイが再開した。XXXTentacionやDrake、Migosのようなアメリカのメインストリーム・ヒップホップを中心としてDenzel Curry、Lil Uzi Vert、Playboi Cartiなどライブのハイプを持ち続けそうな選曲だった。ライブタイムは終わったが、その後もJvcki Waiはたまにブースに戻ってきたりした。例えば3時頃、日本のプロデューサー・PARKGOLFとのコラボで誕生した『xaradise』が流れ出すと、ブースに出てきて特有のジェスチャーなどで会場を盛り上げ、4時にもまた出てきてプレイしていたDJのAMBIVALENとのコラボ・トラックである『RAVEHARD』を共演した。

Jvcki Waiは単に注目の女性ラッパーだとか、シンギング・ラップを武器とするラッパー、あるいは独特のファッションのラッパーなどとひとつの要素では説明できない。彼女の音楽の世界観とそれを表現する個性的なメロディ、歌詞、ゴシックパンクとも言われるファッションスタイル、アルバムで貫く思想やスチームパンクのコンセプトなどは、それがひとつとなった瞬間に初めてはっきりと「Jvcki Wai」というアーティストが理解できるのだ。それをひとつとして目にすることができた今回のライブは、彼女の魅力を全感覚で感じられるいいチャンスだった。

 

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