HIPHOPPLAYA Awards 2015 結果発表
※これまでの韓国ヒップホップのアワードに関する全記事はこちら
毎年恒例の「HIPHOPPLAYA Awards」の結果が発表されました。今回は2015年1月1日~12月31日までの間に発売された音楽と活動したアーティストを候補対象に投票が行われ、2月29日に集計結果が発表されました。ノミネートはこちらをご参照ください。
年々HIPHOPPLAYA内の結果発表のページがシンプル化していってるのが気になりますが、内容の充実よりもスピードを重視しているのでしょうか。アーティストのインタビューとかライターの解説があったらもっとおもしろいのに。ということで、昨年同様また私が主観満載のコメントを入れてみましたので(いらないかもしれないけど)参考にしていただけたら嬉しいです。
1. 今年のアーティスト
E SENS
1位:E SENS (41.477%)
2位:Zico (21.532% )
3位:Deepflow (14.838%)
今年からはなんと、得票率が小数点第三位まで表示されています!(笑) ここ数年、この項目に限らずHIPHOPPLAYA Awardsの主要項目はどれもAmoeba Culture、Illionaire、Just Music、HI-LITEの名前しか見かけないような状態でしたが、ここに来て大きな変化が見られるようになりましたね。1位のE SENSも3位のDeepflowも去年まで席巻していた人と同程度のベテランですが、形勢にこういう変化が見られるようになったは大変興味深いです。
1位を受賞したE SENSはご存知のとおり獄中にいながらアルバムをリリースするという大胆さも話題になりましたが、ストーリーテリングの能力が最も高いと言われるラッパーだけに、満を持して出されてた初のソロアルバムの完成度は期待を裏切らないものでありました。私も鼻が高いです(←というギャグが分かる方は立派なBLOOMINT読者!)。E SENSに関する当サイトの記事はこちらからどうぞ。
2. 今年の新人アーティスト
BewhY
1位:BewhY (48.283%)
2位:Zico (21.093%)
3位:天才ノチャン (12.053%)
毎年思うことなのですが、この項目の「新人」の定義がよく分からないです。例えばノチャンは一昨年と昨年、2年連続で「今年のプロデューサー」を受賞しています。去年は「今年のフィーチャリング・アーティスト」も受賞しました。ソロ名義の作品を出したかどうかだとしたら、Bumkeyなんて2013年でキャリア9年目にして新人ってことになっちゃうし。E SENSだってソロアルバムは初だから今年が新人になっちゃうし。「新人」の定義は何なのでしょうか?
1位を獲得したBewhYはJust MusicのC Jamm率いるクルー「$exy $treet」のメンバーで、C Jammとは高校の同級生だったそうです。実力はC Jammを超えるとも言われており(オーラで負けてしまっている)、明確な発音とオリジナリティ溢れるラップスタイルが高い評価を得ています。他のラッパー同様、やはり『Show Me The Money』への出演で知名度を大きく上げましたね。
3. 今年のフィーチャリング・アーティスト
Babylon
1位:Babylon (21.344%)
2位:Nucksal (19.820%)
3位:Beenzino (16.147%)
これは文句なしの結果でしょう! と言おうと思ったら、思ったよりも接戦でしたね。確かにヒップホップ的な観点から見たらNucksalが断トツで1位だと思うのですが、より幅広いジャンルで評価するとBabylonに軍配が上がるのではないでしょうか。あるいはラップ部門がNucksal、シンガー部門がBabylon的な?
それにしてもBeenzinoは、この部門に毎年必ずランクインしていますね。1位を取ることはなくても、毎年必ず3位以内に入っているということは、それだけ安定した活動をしてきているということになります。
4. 今年のアルバム
E SENS – The Anecdote
1位:E SENS – The Anecdote (53.105%)
2位:Deepflow – 양화 (ヤンファ) (16.469%)
3位:Jay Park – WORLDWIDE (12.910%)
これはもう、まったくもってして予想通りの結果ですね。ちなみに最近、韓国で最も権威のある音楽賞「韓国大衆音楽賞」でも「最優秀アルバム」と「最優秀ヒップホップ・アルバム」の2冠を達成しました。
2015年のヒップホップ・アルバムと言えば『The Anecdote』あるいは『ヤンファ』のどちらか、といったくらいこの2枚の評価は誰から見ても高いものとなりました。どちらも大衆性はまったくありませんが、ストーリーテリングがしっかりとしており、ポップス化して商業化してきた韓国のヒップホップシーンの流れを少し元の姿に戻すという役割もあったように思います。
5. 今年のプロデューサー
Code Kunst
1位:Code Kunst (29.993%)
2位:GRAY (25.018%)
3位:天才ノチャン (18.360%)
レーベルHIGHGRNDで大活躍中のCode Kunstが「今年のプロデューサー」に選ばれました。そして今年に限らずいつでも大活躍中のGRAYが2位を受賞しています。3位に輝いた天才ノチャンは、去年までは2年連続で1位でした。他の2人の活躍が際立っていたので仕方ないですが、それでも3年連続でランクインは素晴らしいことですね。
6. 今年の曲
Keith Ape – It G Ma
1位:Keith Ape – 잊지마 (It G Ma) (Feat. JayAllDay, Loota, Okasian, Kohh) (16.598%)
2位:Deepflow – 작두 (押し切り) (Feat. Nucksal, Huckleberry P) (13.786%)
3位:C Jamm – 신기루 (蜃気楼) (13.374%)
この曲が受賞するのはベタすぎてちょっと恥ずかしいって思えるくらい、あまりにも受賞するのが当然のようなそんな曲です。『It G Ma』をもってして2015年の韓国ヒップホップシーンはスタートし、韓国のラッパーたちがアメリカに注目される大きなきっかけとなり、新たな風を巻き起こしました。いろいろと物議をかもしたKeith Apeでしたが、今の時点では丸く収まってきているようなので一安心です。
そんなKeith Apeがらみのゴタゴタを複雑化させたのが、3位を獲得したC Jammの『蜃気楼』です。この曲がリリースされた時にちょっと書きましたが(こちら)、もうちょっと詳しく説明すると、Keith ApeがCOMPLEXのインタビューの中で韓国ラップを見下すような発言をし、複数のラッパーがKeith Apeをターゲットにディス戦を始めました(しかしKeith Apeは反応せず。後日、誤解を解くべく釈明もした)。その流れの中で、Simba Zawadiという新人ラッパーがHI-LITEのことも合わせてディスし、その後SimbaからHI-LITEに話し合いを求めました。Simbaはその際にHI-LITEからリンチを受けたと話していますが、HI-LITE側から私が直接聞いた話では、Simbaは嘘をついているということです。Simbaと話し合った内容もカカオトークに全部残ってるので、何かあればきちんと対処するそうです。とは言っても、どちらの言い分を信じるかはあなた次第! 私は何より、第三者であるC Jammが『蜃気楼』という曲を通して他人の問題を引っ掻き回したことが無粋だったなと思ってます。C Jammのことはラッパーとして大好きです。スキルも高いし、歌詞もセンス抜群だし。ただ、Paloaltoが『Thank You and Sorry』の歌詞に書いたように「現場にいなかった人間がなんで出しゃばる?」ってことだと思います。まあここでこれを書いてる私も同じなんですけどね。
2位の『작두(押し切り)』の話題に触れる機会を失ってしまいましたが、私もこれは大好きな曲なので2位を獲得して嬉しいです。ミュージックビデオのNucksalが最高です。
7. 今年のミュージック・ビデオ
Keith Ape – It G Ma
1位:Keith Ape – 잊지마 (It G Ma) (Feat. JayAllDay, Loota, Okasian, Kohh) (27.178%)
2位:C Jamm – 신기루 (蜃気楼) (20.557%)
3位:Vasco – Whoa Ha! (10.732%)
今年の曲部門で解説した2曲がここにも入ってきましたね。『It G Ma』は曲だけでなく、映像でもアメリカのヒップホップファンたちに大きなインパクトを与えました。元ネタとなったOG Macoの『U Guessed It』と映像もかなり似ているのですが、その辺の詳しい話についてはこちらの記事をご覧ください。
3位を獲得したVascoのミュージックビデオは、別の曲が発表されたときの記事(こちら)に貼りました。出演者が本当に豪華なので、やはりそこが受賞の決め手となったのでしょうか。
8. 今年のR&Bアーティスト
DEAN
1位:DEAN (28.552%)
2位:Zion.T (23.978%)
3位:Crush (18.711%)
見事に1位を獲得したDEAN(正式表記:DΞΔN)ですが、これは『The Anecdote』同様、誰もが納得の受賞なのではないでしょうか。当サイトでもDEANの記事をちょくちょく書いていますので、ご興味のある方はこちらからご覧ください。
2015年はちょっと勢いが弱かったAmoeba Cultureですが、やっとZion.TとCrushの名前が出てきましたね。この2人はヒップホップ枠から歌謡界枠に移ってしまったような感もあるので、今後は活躍をしてもこのアワードに名を載せるのが少し難しくなりそうな気もします。Primaryも大活躍だったはずなのに、ノミネートすらされてなかったし。
9. 今年のコラボ
작두 (押し切り) (Deepflow x Nucksal x Huckleberry P)
1位:Deepflow – 작두 (押し切り) (Feat. Nucksal, Huckleberry P) (12.5%)
2位:Code Kunst x Joey Bada$$ x Tablo – hood (10.1%)
3位:Keith Ape – 잊지마 (It G Ma) (Feat. JayAllDay, Loota, Okasian, Kohh) (4.4%)
なぜかここにきて得票率が小数点第一位までに(笑) コラボに意外性や衝撃があったという点では2位の『hood』だと思うのですが、ラッパーたちの息がぴったり合って独特の空気を作り出していたという点ではやはり1位の『押し切り』がいいですね。ちなみに「押し切り」とは草や藁を切る道具で「飼い葉切り」とも呼ばれます。英語のタイトルは『Cut Cut Cut』になっています。
10. 今年のミックステープ
Swings – Levitate
1位:Swings – Levitate (43.311%)
2位:Loopy – King Loopy (25.055%)
3位:Nafla – THIS & THAT (23.725%)
Swingsにミックステープを出されちゃったら、もう誰もかなわないですよね。私は個人的には2位を取ったLoopyの『King Loopy』が好きなのですが、Swingsが大差をつけて1位を獲得しました。ちょうどフルアルバムとして続編の『Levitate 2』を出したばかりですが、本来の入隊期間が過ぎたら活発に活動してくれることを期待したいですね。
11. 今年のヒップホップコンサート/フェスティバル
Huckleberry P – 분신 (焚身:ブンシン)
1位:Huckleberry P – 분신 (焚身:ブンシン) (24.12%)
2位:The Cry (7.12%)
3位:独島守護ヒップホップ・フェスティバル (6.0%)
Huckleberry Pの単独ライブシリーズ『焚身(ブンシン)』が2年連続で受賞しました。ソロコンサートでここまで成功を続けているライブとしてはヒップホップ・シーンで類を見ません。おめでとうございます!
3位は竹島と書くべきか迷いましたが、とりあえずオリジナルの名前通りにしました。このフェスについては「音楽に政治の問題を持ち出すなよなー」というのが個人的な考えですが、だからといってどうこう言える立場でもないので、生温かい目で見守ってます。
12. 今年のアルバムジャケット
Deepflow – 양화 (ヤンファ)
1位:Deepflow – 양화 (ヤンファ) (12.7%)
2位:E SENS – The Anecdote (10.4%)
3位:Zico – Gallery (6.8%)
アルバムのジャケット部門で1位に輝いたのは、Deepflowの『ヤンファ』でした。確かこのアートワークはDeepflowじゃなくてRow Diggaがデザインしたような気がしたけど、2人の合作だったかな? 記憶が曖昧ですみません。Deepflowを中央に置き、アルバムのテーマであるヤンファ大橋がその下にかかっています。その周囲にはソウルでの生活やラッパーとしての活動を思わせる絵が。
2位を獲得した『The Anecdote』のジャケットは、本当にシンプル中のシンプルで、ディスクも含めて何もなしって感じのデザインでしたが、そこが芸術的って感じなのでしょうか。ある意味E SENSらしいデザインだと思いました。反対に3位の『Gallery』はド派手って感じのデザインでしたね。それぞれアーティストごとの個性が出て、ジャケット観察もなかなか楽しいです。
13. 今年の歌詞/ヴァース
rap skill 보다 연습해야할 건 현피 (C Jamm – 신기루 (蜃気楼) より)
1位:rap skill 보다 연습해야할 건 현피 (C Jamm 『신기루 (蜃気楼) 』より) (16.6%)
2位:내가 망할 것 같애? (Dok2 『내가 (俺が) 』より) (7.0%)
3位:잊지마! (Keith Ape 『It G Ma』より) (6.1%)
翻訳+解説 by SAKIKO
1位:ラップスキルより練習しなきゃいけないのはヒョンピ(C Jamm 『신기루(蜃気楼)』より)
この曲の内容に関しては上のほうでも解説しましたが、この部分のラインはまさにSimbaの名前を出して書いている部分です。「Simbaのようなラッパーがディスしたらお前はリンチに遭う ラップスキルより練習しなきゃいけないのはヒョンピ」と続きます。「ヒョンピ」とは若者の間で使われるネット用語で、ネット上で起こったケンカが激化して、当事者同士が実際に会って物理的に暴力的なケンカを行うことを指します。「ヒョン」は韓国語で「現実(ヒョンシル)」の「ヒョン(現)」で、「ピ」は「Player kill(オンラインゲームで相手を殺したり倒したりすること)」の頭文字の「P」です。文字表記としては「現P」ですね。つまりC Jammは「若手ラッパーが大物をディスしたらリンチされるから、ラップよりもケンカの練習をしなきゃ」と言っているわけです。でもしつこいですけど、私がHI-LITEから聞いた話とSimbaが韓国の掲示板に書いた手記はまったく食い違っているので、どちらを信じるかはあなた次第!
2位:俺が落ちぶれるだろうって?(Dok2 『내가(俺が)』より)
Dok2が贅沢三昧の生活をしていることをインスタグラムやテレビ番組などでひけらかしているせいもあるのでしょうが、そのことで叩かれることもよくあるようです。そんなことを思わせる歌詞を書くことが増えたように思います。この曲でも「こんな生活を続けていても持たないから 全部ダメになるだろうって?」というようなことをラップしています。だけど自分は信念に基づいて常に努力しているんだ、と。実際に努力の賜物として成功しているDok2が言うからこそ映える歌詞ですね。
3位:イッジマ!(Keith Ape 『It G Ma』より)
この曲がリリースされた時の記事などにも何度か書いていると思いますが、「잊지마(イッジマ)」とは「忘れるな」という意味で、「It G Ma」というのは発音をかっこいい感じでアルファベット表記したものですね。この曲を作った当時、The Cohortクルーの間で「イッジマ!」と言い合うのがちょっと流行っていたと聞いたことがあります。だからたいした意味もなく書いたフレーズだったのに、クルーにとって世界的に飛躍する大きな意味を持つ曲になってしまいましたね。
14. 今年のレーベル/クルー
AOMG
1位:AOMG (22.8%)
2位:Just Music (14.4%)
3位:VMC (12.7%)
2015年は韓国ヒップホップシーン全体が平等に盛り上がった感じがして、どこかが際立って大活躍していたような印象がなかったのですが、そんな中でも堂々の1位に輝いたのがスターの宝庫、AOMGです。Jay Parkのアルバムも評価が高かったし、GRAYもプロデューサーとして大活躍だったので、文句なしの受賞ですね。
Just MusicはSwings不在の中でも仮代表を務めたBlack Nutをはじめ、Giriboy、C Jamm、Vascoなどが健闘してレーベルの人気を押し上げていきました。VMCはAOMGと同じ並びで比較したらかわいそうなくらいアンダーグラウンド色の強いレーベルですが、3位に入賞したというのは快挙ですね。Deepflowの『ヤンファ』の活躍とNucksalの飛躍が大きかったように思います。
15. 今年のファッションアイコン
Zico
1位:Zico (22.1%)
2位:Okasian (14.4%)
3位:Beenzino (8.6%)
毎年思うのですが、これはイケメン対決ではないですよね?(笑) 去年まで2年連続で1位を取ったBeenzinoが今回は3位に。代わりにアイドル枠からラッパー枠へグイグイ食い込んできているZicoが受賞しました。
16. 今年のイシュー
E SENSが獄中アルバム発売
1位:E SENSが獄中アルバム発売 (37.8%)
2位:“KOREAN RAP, IT SUCKS. BAD” – Come Back Home – 蜃気楼 (13.1%)
3位:CJ E&MがHI-LITE Recordsを買収 (10.5%)
去年この部門で1位を獲得したのは「E SENS 大麻疑惑で『The Anecdote』は無期限延期か?」でした。そして今年は「E SENSが獄中アルバム発売」です。去年は「無期限延期か?」と心配された状態でしたが、今年は無事にリリースされたということで、獄中といえど、ある意味めでたいニュースと言えますね。しかし「獄中アルバム」って言うと、まるで獄中で作ったみたいですね(笑) ちなみに一昨年も1位と2位がE SENS関連のニュースだったのですが、本当にこの人は毎年大きなニュースを落としてくれます。
2位を獲得した事件は、先ほどから何度か書いているKeith ApeのCOMPLEXのインタビューから始まり、TakeOneの『Come Back Home』を発端に起こったKeith Apeへのディス戦、そしてC Jammの『蜃気楼』までの一連の流れですね。HI-LITEがずっとやり玉にあげられたような一年でした。そして3位もHI-LITE関連です。これもビックリしましたね(当時のニュース記事はこちら)。今年に入ってからAOMGも同様にCJ E&Mに買収されましたが(こちら)、どちらも買収というよりは協力関係といったもので、主導権は元のレーベルが持っていますし、大株主から投資を受ける立場といった感じでしょうか。
17. 2016年の有望株
nafla
1位:nafla (32.536%)
2位:Owen Ovadoz (21.377%)
3位:Justhis (16.812%)
ここは断トツnaflaで文句なしですよね。元々はLoopyがグンと来そうな様子でしたが、naflaの追い上げが半端無くて一気にLA活動組の中で頂点に達した気がします。naflaたちのドキュメンタリー映像をまだ観たことがない方は、ぜひこちらからどうぞ!
Owen Ovadozも最近Loopyやnaflaと同じレーベル「MKIT RAIN」に加入したことが話題になりました(ニュース記事はこちら)。Justhisは去年6月に行ったSpeaking Trumpetのインタビューを読んでいただくと分かると思いますが、ベテランラッパーたちの間で評価が高いのが印象深いですね。ここに名前を連ねた3人は間違いなく2016年に活躍すると思います。
出所:HIPHOPPLAYA
日本語訳:SAKIKO