Album | Kebee - WATER


Eluphantのメンバーであり、Speaking Trumpetや不汗黨などのクルーにも所属して精力的な活動を続けてきているベテランラッパー、Kebeeのニューアルバム『WATER』が本日1月27日にリリースされました。前作『Lost and Found』以来、約3年ぶりの新作ですね。ソロ名義のアルバムとしては、これが6作目となります。

リリースと同時にタイトル曲のミュージックビデオも公開されました。『외국인(外国人)』という曲で、Brother Suの優しい歌声がマッチしたスローポップ・チューンです。

 

今回のアルバムのタイトルである『WATER』は、「Walking Across The Escape Room」という文章の各単語の頭文字を取ってつけたそうです。「自らが作り上げた心理的な空間を徘徊し、潜り込んだ時に発見した開放感を表わした」という思いが込められているとのことです。

詩的な表現に感心しますが、Kebeeはこちらのインタビューでも「ラップを始める前は、詩人か小説家になりたかった」と語っているように、普段からとても詩的で文学的な歌詞を書く人です。Speaking Trumpetのアルバムでは、有名文学のタイトルから引用した曲名で話題になりましたが、メンバーにKebeeがいるからこその文学性だな、と思いました。

アルバムリリースに先駆け、去年11月にミュージックビデオが公開された『YA』では、自分らしいスタイルを変わらずに貫くKebeeの姿に多くのファンが感動しました。特に古くからのファンにとっては、2000年代に韓国ヒップホップシーンを大いに盛り上げたSoul Comany(KebeeとThe Quiettが運営していたレーベル)のことを思い出させる象徴的な一曲となりました。

 

前作『Lost & Found』は、Soul Companyの解体後、一度自分の気持ちをリセットして失ったもの(Lost)と新しいもの(Found)に向き合うというコンセプトが味わい深いと思いましたが、今回の『WATER』のコンセプトもなかなか素敵です。自分の心理的な空間を徘徊し、潜り込み、内面を観察しながら発見した開放感を元に、最近失われ始めてきた「ヒップホップ音楽の文学性」について示唆しているということです。

大変興味深いことに、9曲目の『자아도취(自己陶酔)』にはThe Quiettがフィーチャリングしています。この2人は先述の通り、Soul Companyを共に立ち上げ、運営し、2000年代に韓国ヒップホップのひとつの時代を築き上げた仲であります。Soul Company設立以前より「Bee Quiett」というチーム名で数々のコラボレーションをしてきました。しかしThe Quiett が Illionaire Recordsを設立して独立。別々の道を歩むこととなりました。

ジャジーなサウンドと文学的な歌詞で若者から圧倒的な支持を受けたSoul Companyでしたが、The Quiettの音楽性がまったく変わってしまったことにより、この2人のコラボレーションを見ることはできなくなってしまいました。とはいっても高校時代から続いてきたこの2人の友情は変わることなく、友人としての関係は良好でした。でも音楽ではもう一緒になることはないと思っていたので、これは正直、個人的にも嬉しいサプライズでしたね。

Illionaire Recordsの傘下に設立されたAmbition Musik所属のキム・ヒョウンも本作に参加していることから、ここにもThe Quiettの影が感じられます。本作では「ヒップホップ音楽の文学性」を示唆しているということですが、文学性から距離を置いてしまったThe Quiettが関与しているという点で、とても興味深いアルバムです。

Soul Companyの成り立ちや活躍については、拙著『ヒップホップコリア』のP.35から始まるコラム「韓国ヒップホップの歴史」の第5章と第6章に詳しく書いてありますので、まだ読んでない方はこの機会にぜひ! 一家に一冊、『ヒップホップコリア』!

 

ところで余談ですが、Kebeeは昨年『MIC SWAGGER』のセカンドシーズンに出演し、これまた大きな話題を呼びました。Kebeeはソロ作品にしても、Eluphantにしても、優しいスタイルの音楽やラップをやっているためあまりフリースタイルのイメージがなかったのですが、これが大変なスキルの高さで正直私も驚きました。

この動画が公開された後、Paloaltoがインスタグラムで「高校生の頃、路上でフリースタイルバトルをやっていた時にKebeeがやってきて、場をかっさらっていったのを思い出した」というようなことを書き込んでいました。実は昔からフリースタイルでもかなりの実力で知られていたそうです。Kebee本人にもこの『MIC SWAGGER』のラップがとても良かったことを伝えると、とても喜んでくれました。やはりラッパーとして、フリースタイルが認められるのは嬉しいんですね。

 

ニューアルバム『WATER』のトラックリストは以下の通りです。プロデューサーにはKebee自身の他、G-Slow、Yosi、Rainyway、Doplamingo、Pleynなどを迎えています。

01. 방음 (防音) (Quiet Room) (Feat. Taek)
02. 외국인 (外国人) (My Foreigner) (Feat. Brother Su)
03. 껍질 (皮) (Bark) (Feat. キム・ヒョウン)
04. 젖게 놔둬 (濡らしておく) (Holiday)
05. Brainriding
06. The Rooms
07. YA
08. 범 (Boom)
09. 자아도취 (自己陶酔) (Narcissism) (Feat. The Quiett)
10. 어때 (どう?) (Hometown) (Feat. ヤン・ダイル)
11. Welcome

※Kebeeが去年、日本のアルバムに参加した曲も聴いてね!
Topic | Kebeeが日本のアルバム『創 -sou- Vol.1』に参加

 


 

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Sakiko Torii
About Sakiko Torii
BLOOMINT MUSICの運営者である鳥居咲子は、幼少期よりピアノと音楽理論を学び、ロンドンに音楽留学をした。現在は音楽記事の執筆、ライブ主催、楽曲リリースのコーディネート、メディア出演など、韓国ヒップホップに関する様々な活動を展開している。著書に『ヒップホップコリア』。音楽以外に関するネタを集めた趣味ブログ『BLOOMINT DIARY』も運営中。別名ヴィヴィアン。
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