Single | Jerry.k – HA-YA-HEY

Written By Sakiko Torii

政治問題や社会問題が起こると、必ずラップで意見を提示してくれるラッパーがいます。ソウル大学出身で、大手金融企業である「現代カード」に勤務していた経験を持つ韓国ヒップホップ界No. 1のエリート、Jerry.kです。

今回発表したのは『HA-YA-HEY』という曲で、YouTubeにリリックビデオが無料公開されています。「HA-YA-HEY」とは韓国語の「하야해(ハヤヘ)」をアルファベット表記にしたもので、「下野しろ」という意味です。「下野(げや)」とはあまり聞き慣れない言葉だと思いますが、官職を辞して民間に下ることや、与党が政権を失って野党になることを意味します。

今、韓国では朴槿恵(パク・クネ)大統領が、40年来の親友である民間人の崔順実(チェ・スンシル)氏に国家機密を漏らしていたというスキャンダルが発覚し、政権発足以来最大の危機を迎えています。漏らしていたどころか決定権まで委ねていたようだとか、チェ・スンシル氏の父親が宗教家で洗脳があったのではないかとか、チェ・スンシル氏の周囲の人物たちが結託して国政を操作していたのではないかとか、次々に疑惑が出てきて、チェ・スンシル氏も逮捕され、収拾がつかない事態になっています。

韓国では国民による大規模なデモも行われ、そこで声高に叫ばれていたのがこの「하야해(ハヤヘ)」という言葉です。Jerry.kはこの『HA-YA-HEY』という曲を通して、彼なりのパク・クネ大統領に対する考えをぶつけています。この他、Owen Ovadozが『Hypocrite』という曲で同じ問題について曲を公開したので、よろしければこちらの記事も合わせて読んでみてください。

私の書いた本『ヒップホップコリア』をお持ちの方は、P.187をご覧ください。Jerry.kが2012年に公開した『시국선언(時局宣言)』という曲の歌詞と背景を詳しく解説しています。その『시국선언(時局宣言)』もまた、パク・クネ氏にまつわるスキャンダルに対して書かれたものでした(厳密に言えばパク・クネ氏というより、彼女が当選した大統領選挙を動かしていた国家情報院のスキャンダル)。この曲で、一国民としての意見を直球でありながらウィットに富んだ表現で書いたJerry.kの歌詞に惚れてしまい、それ以来Jerry.kは私の中でちょっと特別な位置にいるラッパーです。

今回の『HA-YA-HEY』も相変わらず直球勝負でありながら、「俺たちは生活を切り詰めて、切り詰めて、切り詰めて、その紙幣は財閥たちの蔵、蔵の中に積まれて、その財閥にせがんで、せがんで、せがんで、通帳に増えたコンマ、コンマ、コンマ」などといった感じで、Jerry.kらしくウィットを効かせています。

フックでは、より直球に「HA-YA-HEY 女王様らしく優雅に消える方法がひとつあるね。下野しろ」と言っています。また、ラストでは「あなたは誰の代表だ? パク氏か、チェ氏か、チョン氏一家か。それなら『宗親会長』ぐらいがお似合いだろう」と言っていて、言葉の選び方や表現方法がいちいちかっこいいです。「宗親会(そうしんかい)」とは韓国特有の言葉で、同じ地域に住む氏族で組織されている会のことだそうです。また、「チョン氏」とは、パク・クネ政権の影の実力者と言われているチョン・ユンフェ氏のことかと思います。

国家の代表であるはずの大統領が、一部の一族のみのために動いている。それなら肩書は大統領ではなく「宗親会長」ぐらいがお似合いだと。そして女王様らしく優雅に下野しろと。バカのひとつ覚えみたいに同じ言葉の繰り返しになりますが、直球でありながらウィットに富んでいて、本当にかっこいいです。

Owen Ovadozの『Hypocrite』での言葉を借りると、「このサイトは政治のサイトではなく音楽サイトだから、本当は政治的な話を書くのは避けたかったんだけど」 Jerry.kの動きはファンとして目が離せないものがありますので、ご紹介させていただきました。

writerSakiko Torii

BLOOMINT MUSICの運営者。韓国ヒップホップ・キュレーターとして執筆、ライヴ主催、音源/MV制作サポート、メディア出演など多方面に活躍中。イギリスに音楽留学していた本格派。著書に『ヒップホップコリア』。

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