Column | Stereophonics (1/2)


今回はイギリスのロックバンド、Stereophonics(ステレオフォニックス)のご紹介をします。長くなっちゃったので記事を2つに分けました。

ステレオフォニックスはイギリスのウェールズ出身のバンドとして、1997年にデビューしました。メンバーはボーカルのKelly Jones(ケリー・ジョーンズ)、ベースのRichard Jones(リチャード・ジョーンズ)、ドラムのStuart Cable(スチュアート・ケーブル)の3人。「ウェールズってどこ?」と思う方も多いかもしれませんが、下の地図のオレンジで塗りつぶした部分です。首都はラグビーで有名なカーディフです。

 
UK

 

イギリスという国は、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国(Country)で構成されています。それぞれかつては独立していた国です。日本語ではイギリス、英国などと呼びますが、正式な国名は「United Kingdom of Great Britain and Ireland (グレートブリテン及び北アイルランド連合王国) 」です。グレートブリテンとは、イングランドとウェールズとスコットランドの3ヶ国が入っている右側の島のことです。

ウェールズの現在の公用語は英語ですが、元来話されていたウェールズ語というのがあるため、駅から道路からあらゆる看板表記が両方の言語で書かれています。このウェールズ語というのが激しく謎でして。例えば「ウェールズへようこそ」という意味の「Welcome to Wales」はウェールズ語だと「Croeso i Gymru (クロイソ イ ガムリ) 」というそうです。

下は私が昔ウェールズに行った時に撮った写真です。上がウェールズ語、下が英語で「カーディフ中央駅」と書いてあります。デジカメ初期の時代なので、恐ろしく画質が悪いけど。

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元がこういう言語だった場所なので、英語を話す現在も訛りが半端ありません。だからステレオフォニックスのライブもインタビューもあまり聞き取れません。そんなウェールズ出身のロックバンド、ステレオフォニックスのご紹介をしたいと思います。

 


 

ウェールズの炭鉱の町、Cwmaman(カマーマン)でご近所同士だった3人の少年が知り合ったのは、ケリーとリチャードが8歳、スチュアートが12歳のときのこと。その頃から一緒に音楽を聴いたり演奏したりしていました。それから10年後の1992年、3人は正式にバンドを結成します。そして5年後の1997年、アルバム『Word Gets Around』でデビューを果たしました。


Word Gets Around

ステレオフォニックスの魅力は何といってものケリーの声。イギリスではよく「砂利のような声」と形容されていますが、本当にジャリジャリです。デビューして5年後ぐらいからジャリジャリ度が増して、たまにエレキギターの音色と区別がつきません。そして、もちろん音楽。コード進行や楽曲構成は単純なのですが、メロディラインやギターリフが独創的です。ライブの演奏クオリティの高さも抜群です。それから、元々はシナリオライターを目指していたというケリーの書く歌詞。ストーリー性が高くて、独特な世界観が描かれています。

このアルバムでは『A Thousand Trees』『Local Boy In The Photograph』『Traffic』あたりが代表曲だと思うのですが、ここでは私の大好きな『Not Up To You』という曲をご紹介したいと思います。曲自体も好きだけど、何よりMVが好きで。20歳そこそこの初々しい彼らの姿を見てると愛おしくなっちゃうんですよね。

 


 

私がステレオフォニックスの存在を知ったのは、その翌年のこと。1998年にリリースされたセカンドアルバム『Performance and Cocktails』がリリースされた後です。


Performance & Cocktails

この当時私はイギリスに住んでいたのですが、彼らの音楽はテレビやラジオから毎日のように流れていました。中でもこのアルバムに入っている『Just Looking』という曲は特によくかかっていました。70年~80年代生まれでこの曲を知らないイギリス人はいないのでは?

このアルバムは本当によく売れました。洋楽ロック好きの人であれば、一度はこのジャケット写真を見たことがあるのではないでしょうか。紹介したい曲がたくさんあるのですが、今回は『She Takes Her Clothes Off』をピックアップしました。この曲は元々パンクだったのですが、ガラリと方向性を変えてオルタナロックな曲になりました。曲自体が持つ雰囲気がとても素敵なんです。コードやメロディもいいし、独特なストーリーを描いた歌詞も印象的です。ザックリと歌詞を要約すると、

彼女はカーニバル・クイーンの称号を持っていた。今は服を脱いでいる。自分が表紙の雑誌を集め、再びティーンエイジャーの憧れとなる日を夢見ている。問題は、彼女は今43歳だということ。彼女は服を脱ぐ。そして彼女は遺体で発見された。彼女は言っていた。「私はマリリンになるの。髪を染めて、痩せて、誰もが私と一緒に踊りたいって言うのよ」と。誰もがカーニバル・クイーンになりたいんだ。彼女は服を1枚ずつ脱ぐ。

といったストーリーで、ケリーが実際に知っている女性の話を元に創作したそうです。その女性はかつてはとても美しく、男性という男性からチヤホヤされていたそうなのですが、年を取ってすっかり太った今も注目されたい願望から抜け出せず、バーで服を脱いで馬鹿なことをして周りの関心を集めているそうです。

ちなみに上のパフォーマンス動画は1998年にウェールズのカーディフ城で行われた公演の模様なのですが、カーディフ城って2千年以上の歴史を誇るお城なんですよー!

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こんな由緒ある場所で単独ライブができるくらい、ステレオフォニックスはウェールズを代表する大スターってことです! あと、アルバムには入ってないのですが、この時期にシングルのB面としてリリースされた『In My Day』という曲がめっちゃ好きなので、それだけ紹介させてください。この曲は本当に素敵です! 今でも思い出してはしょっちゅう聴いています!

 


 

ところで今の60~70代の人たちが若い頃に夢中になったシンガー、Tom Jones(トム・ジョーンズ)をご存知でしょうか? 私の父や叔母も大ファンでした。常人離れした声量で世界を圧倒した人で、72歳の今でも現役の大人気シンガーです。相変わらず年中ワールドツアーをやってます。同じウェールズ出身のよしみからか、ステレオフォニックスとトム・ジョーンズは2000年にコラボシングル『Mama Told Me Not to Come』をリリースして大ヒットさせました。1966年にリリースされたエリック・バードンのカバー曲です。

当時、彼らがこの曲をテレビで歌ってる場面をイギリスで観て興奮したのをよく覚えています。そしてこのときのトム・ジョーンズ、60歳とは思えない声量! 20代半ばのケリーが押されています。だけどライブに行ったら分かるけど、ケリーの声量も半端ないんですよ。なのにこれって、トム・ジョーンズがどれだけ凄いかってことですよね。

 


 

それまでノリノリなパンクロックやアコースティックナンバーが多かった彼らですが、2001年にリリースしたサードアルバム『Just Enough Education to Perform』では音楽性の幅がグッと広がりました。


Just Enough Education to Perform

特に『Mr. Writer』という曲は、マイナーコードで重々しく、ケリーの歌声も今までのような張り上げる歌唱法はすっかり消え、粘っこくなって深みを増しました。この曲では途中で憂いあるピアノソロを入れるなどアレンジの幅も広がったし、声自体のジャリジャリ感も増して誰にも真似できない唯一無二のスタイルを確立しました。

これはタイトル通り、ライター(雑誌記者)に向けた歌で、信じていたライターに裏切られたケリーの気持ちを綴った歌詞です。例によって歌詞の内容を要約すると、

君は壁にターゲットの名前を並べて、全部撃ち落とすんだ。そんなに寂しいのか? 俺のことなんて知りもしないだろう? なのに俺に石を投げつけたいのか。君を信じて時間を割いてあげたのに、僕が背を向けた途端にそういうことをするんだね。僕から見る限り、君は十分な教育を受けているだろうに。君たちのことをみんな撃ち落としてやりたいよ。ライターさん、事実をそのまま書いてみたら?そのまま、ありのままに書いてみたらどうだい?

といった感じです。途中で出てくる「十分な教育を受けている」というのは、アルバムタイトル『Just Enough Education to Perform』と同じフレーズです。アルバムタイトルにするくらい、ケリーがこのとき一番言いたかったことなのでしょうね。

ちなみにサッカー好きなら誰でも知ってるスター選手、ウェイン・ルーニーはステレオフォニックスの大ファンで、腕にこのアルバムタイトルのタトゥーを入れています!

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Credit: The Telegraph

このアルバムにはほかにも『Have a nice day』『Step On My Old Size Nines』『Handbags and Gladrags』などの代表曲がたくさん入っています。『Have a nice day』は日本の自動車のCMに使われたことがあるし、『Handbags and Gladrags』は1967年にクリス・ファーロウがリリースした曲ですが、ロッド・スチュワートが1969年にカバーしたバージョンが最も有名です。

ステレオフォニックスのバージョンがヒットした当時、ロッド・スチュワートは「俺のバージョンのほうがいい」的なコメントをしていました(笑) で、それを聞いたローリング・ストーンズのロニー・ウッド(ステレオフォニックスともロッド・スチュワートとも仲良し)が「ただのヤキモチだろう」ってコメントしていて吹きました(笑)

私がこのアルバムで一番好きなのは『Rooftop』という曲です。最高にかっこいいロックソングです。UKロック好きならハマること間違いないですね。下の動画の0:28からパフォーマンスが始まります。

 


 

そして2003年、4枚目のアルバム『You Gotta Go There to Come Back』をリリースします。ますます音楽性がダークさを増し、ディープなオルタナロックの世界が作り出されています。


You Gotta Go There to Come Back

このアルバムタイトルは「ここに帰ってくるためには一度そっちに行かないといけない」という意味ですが、アルバム作業中にあれこれ模索していて、一度違う方向性になったけどまた元の状態に戻ったとき、ベースのリチャードが言ったセリフだそうです。かっこいいですね!

そしてこのアルバムは何と言っても『Maybe Tomorrow』でしょう。これはファンがライブで一番聴きたい曲のうちのひとつではないでしょうか。ライブでは長いことアコースティックギター1本だけで歌ってきましたが、3年前のツアーではザックリしたロック調アレンジで演奏しました。私はこの時のバージョンが一番好きです。オリジナルはギターやボーカルの重ね方がちょっとうるさいし、アコースティックはダークさが足りない。でもオリジナルも最高にかっこいいです。本当にこれは名曲です!(MVの冒頭で口ずさむのが、まさにライブでいつもやっていたアコースティックバージョンです)

このアルバムがリリースされる前の年、ケリーは中学生の頃から12年付き合ってきた婚約者と別れました。ところがそのわずか数週間後、ケリーの友達だったバンドのカメラマンとその婚約者が付き合っていることが発覚し、ブチ切れたケリーは事件を起こしてしまいました。相手の男性の家のドアを蹴飛ばし、レンガで窓を割り、鉄パイプで車をボコボコにして逮捕されました。だいぶ酒に酔っていたようです。

で、アルバムに収録されている『Rainbows & Pots Of Gold』という曲の歌詞が、まさにこのことについて歌っている曲なので、歌詞を要約しておきますね。

元気にやってるらしいね。俺を思い出すことはある? 一緒にバカな夢を見たこと覚えてる? たくさん写真を撮ってくれたよね。全部俺が買い取ったけど。俺は一度道を見失いかけたけど、もう大丈夫だ。ピエロの格好をしたときが懐かしいよ。車はその後どう? 彼女はいつ君の奥さんになるの? 君のこと本当に信じてたよ。信じてた数少ないうちの1人だった。一緒に笑ったり喧嘩したりしたね。最後に話をしたときから、俺もだいぶ大人になったよ。またいつか話せる日がくるかな。また酒を飲む日が。2人には幸せになってほしいよ。君たちもこうやって俺のことを懐かしんでくれてたらいいな。

ピエロの格好というのは、上に貼った『Mr. Writer』のミュージックビデオのことでしょうか。破壊した車についても触れていますね(笑) 2人の幸せを願ってることを歌を通して伝えるなんて。こういうケリーの率直で偽りない歌詞を書くところが大好きです。いや、でも暴れるのはいかんけど(笑)

そしてこのあと、ステレオフォニックスは試練を迎えることとなります。このアルバムをリリースした頃から、ドラムのスチュアートのアルコール依存とドラッグ中毒がひどくなり、仕事にも遅刻やドタキャンを繰り返すようになりました。スチュアートと連絡が取れず、ケリーとリチャードが急遽2人でアコースティックライブをやったこともありました。

長いことゴタゴタとしたようですが、ケリーはとうとうスチュアートを解雇しました。8歳で知り合ってから20年。双方にとって残酷な決断でした。真相はスチュアートがケリーの独裁状態に耐えられなくなったからだとか、何年経ってもいつまでもいろんなゴシップ記事が錯綜してました。実際には1年半後に仲直りしていたそうです。友達の結婚式で一夜限りの再結成をしたこともあるし、連絡も頻繁に取り合っていたようです。雑誌にはいつまでも不仲だと書かれていたけど、そんなのは無視して仲良しの関係を続けていたんですね。

スチュアートが最後に参加したこのアルバムには『Since I told you it’s over』という曲が収録されています。私がステレオフォニックスで一番好きな曲です。この曲は恋愛のことを歌ってるのですが、私にはスチュアートのことを歌ってるように聴こえるんです。この曲を録音したときは解雇することなんて知る由もなかったからそんなわけはないんだけど、妙に歌詞が状況にマッチしていて。

「僕たちはもう終わりだ」と僕が言ってから、君の心には穴が開いている。僕は四つ葉のクローバーを見つけるよ。僕を忘れられないなんて言わないで。僕はボロボロになって、頭の中は嘘でいっぱい。落ちるところまで落ちたけど、僕は立ち上がったんだ。だけど君をひとりで溺れさせた。そんなつもりはなかったのに。あの日僕は、君のために去ったんだ。だけど君は本当は大丈夫だったのに、尻ごみをしたのは僕のほうだったんだ。そして君のことを外で凍えさせたんだ。

解雇されてから7年後の2010年、スチュアートはアルコールの過剰摂取で、眠っている間に吐しゃ物を喉に詰まらせて亡くなりました。40歳になった数週間後でした。

40歳の誕生日に「おめでとう」とメールを送ったケリーに、スチュアートが「自分が40歳になる日がくるなんて思いもしなかった」と返信してきたそうです。そのときケリーは「100歳まで生きるさ」と返信したそうです。スチュアートが亡くなった日の翌日も一緒に飲みに行く予定だったそうです。

今年2月のインタビューの中で、ケリーがスチュアートについて語りました。スチュアートの解雇から10年、死から3年経って、やっと冷静に語ることができるようになったようです。そしてとても後悔していることが分かり、胸が痛みます。そのケリーのインタビュー内容を翻訳しました。

スチュアートのことは毎日思い出す。毎日会いたいと思ってる。昔の曲を演奏するたび、スチュアートがまだ生きているような気がする。スチュアートとリチャードと僕の3人でいろんなことを一緒に達成してきた。もしまだ生きていたら、きっと最終的にはバンドに戻っていたと思う。2003年に僕たちに起きたことは本当にバカだった。もしあの頃の僕たちがもっと忍耐強かったら、全部解決できていたはずだ。結局のところ、たかがバンドじゃないか。

出所:Daily Mail

 

Column | Stereophonics (2/2) へ続く

 

Sakiko Torii
About Sakiko Torii
BLOOMINT MUSICの運営者。イギリスでの音楽留学経験を生かした音楽的に深みのある記事が売り。独自スタイルのライブ企画、楽曲リリースのコーディネート、ライター活動、各種メディア出演など、韓国ヒップホップにおいて多方面に活躍中。著書に『ヒップホップコリア』。別名ヴィヴィアン。
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