Column | Spice Girls


Spice Girls(スパイス・ガールズ)は、90年代後半に世界中に旋風を巻き起こしたイギリスのアイドルグループです。あんまり詳しくない人でも、名前くらいは聞いたことありますよね? あ、さすがに10代の子は知らないかもしれないけど……。

1996年にシングル『Wannabe』でデビューし、同年アルバム『Spice』が世界的にスマッシュヒットして一躍スーパースターになった彼女たち。メンバーはGeri Halliwell(愛称:Ginger Spice)、Emma Bunton(愛称:Baby Spice)、Victoria Beckham(愛称:Posh Spice)、Melanie C(愛称:Sporty Spice)、Mel B(愛称:Scary Spice)の5人で構成されています。

アルバムとシングルのセールスは全世界で累計7,500万枚。アルバムはアメリカで1,100万枚、ヨーロッパで1,300万枚売れました。そもそもイギリス人がアメリカで人気になること自体、そんなによくあることではないんですね。日本では同じ「洋楽」ってカテゴリーにされちゃうので、その辺が見えにくいと思うんですが。

人気絶頂だった当時、バービー人形ならぬスパイス・ガールズ人形が売られたりして、本当にすごい人気でした。私はちょうどその頃イギリスに住んでいたので、小学生から大人までイギリス人がどれだけスパイス・ガールズに夢中になっていたか目の当たりにしてましたよ。

 

スパイス・ガールズって、アイドルだと思って食わず嫌いでいたら本当にもったいないグループです。そもそも曲作りから活動のトータルプロデュースまで自分たちが大きく関与しているので、アーティストに近いと思います。

彼女たちはデビュー前、共同生活をしながらレッスンに励み、レコード会社に売り込むために自分たちでプレゼンテーションを行いました。そして晴れてデビューし、人気はうなぎ上りに。90年代当時、男性グループしか人気が出なかった時代の流れを一気に変えました。

スパイス・ガールズの魅力を書き出してみると、

  • 各メンバーの個性がグループ内で重ならない
  • 男性に媚びないスタイル
  • ピッタリと揃えた振付けではなく、自由に動き回るステージング
  • 歌唱力の高さ
  • バラバラの声質とピッチが作り出すハーモニー
  • 音楽のクオリティが抜群に高い
  • 原色感あふれる衣装やアートワーク

といった感じです。

歌唱力が一番高いのはMelanie C、次がEmmaで、残りの3人はまあまあなんですけど、なんといってもハーモニーが素晴らしい! 5人の声質もピッチも全く違うので、ハーモニーがブ厚くなってめちゃくちゃ美しく響くんです。他のアイドルには見られない技だと思います。

キャラも各メンバーで全く違います。上述の通り、メンバーにはそれぞれ「○○Spice」という愛称があります。ジンジャーヘア(赤毛)でセクシーなGeriはGinger Spice、童顔でキュートなEmmaはBaby Spice、オシャレで気品漂うVictoriaはPosh Spice、運動神経抜群のMelanie CはSporty Spice、パワフルでエネルギッシュなMel BはScary Spiceです。それぞれの個性に合わせた衣装をまとい、ヴィジュアル的には「アンバランスなことによるバランスの良さ」を作り出しています。

楽曲のクオリティの高さも抜群です。位置付け的にはアイドルだけど(欧米ではアイドルというのは小中学生向けの存在)、音楽的には普通の大人の音楽ファン層に向けたクオリティで勝負しています。各メンバーの歌声に個性があることを生かし、ハーモニーやソロパートなどが緻密に計算されて作られています。

ひとまず彼女たちの代表曲と、私が個人的に好きな曲を貼っていきます。

 

Wannebe

いわずと知れたスパイス・ガールズのデビュー曲。この曲は当時、日本で普通に生活しているだけでもそこらじゅうで掛かっていて耳にしたのではないかと思います。37カ国でチャート1位を獲得し、全世界で600万枚を売り上げました。この記録は、音楽史上、女性グループで最も多く売り上げた数字となります。

 

Who Do You Think You Are

これもファーストアルバム『Spice』に収録。ミディアムテンポのダンスチューン。まだアイドルらしい一面も強くて、こういうのがやはり典型的な初期のスパイス・ガールズだと言えます。すべての曲で、一番歌唱力の高いMelanie Cのソロパートが目立つ構成です。

 

2 Become 1

この年のクリスマスソングとしてNo.1ヒットを記録した曲。ニューヨークのタイムズスクエアで撮影された、背景が高速で動いていくこのミュージックビデオが話題になりました。今でこそ普通に感じる技術も、まだ1996年頃だと画期的だったんですよ。こうやってミュージックビデオが観れる機会も少なかったし……。

 

Spice Up Your Life

この曲以降はセカンドアルバム『Spiceworld』に収録されています。この曲はまさかの完全なるサンバですが、それをここまで大衆受けしやすいポップチューンに仕上げているのがすごい。サビのハーモニーが不協和音ですごくかっこいい。

 

Move Over

ペプシコーラのCMで使われてヒットした曲です。5人が作り出す美しいハーモニーが楽しめます。この曲を聴くだけでも、スパイス・ガールズが決してユニゾンで歌うことはなく、ひとりひとりがソロパートを的確にこなしているというのがよく分かると思います。ファッションも今見てもかっこいいです。

 

Viva Forever

それまでアップテンポだったりエネルギッシュな曲が多かったスパイス・ガールズ。『2 Become 1』のようなバラードでもメジャーコードで前向きなイメージだった彼女たちは、この切ない曲で新たな一面を見せました。ミュージックビデオも全面に渡ってCGが使われ、当時としてはそれがまだ珍しかったので話題になりました。Mel Bが低音を歌うことで、サビのハーモニーがアカペラグループのように重厚になっています。

 

Saturday Night Divas

これは全然代表曲ではないと思うんだけど、個人的に大好きなので入れました。メロウなビートとスパイス・ガールズのハーモニーの相性が抜群です。さっきからハーモニーの話しかしてないけど、それくらい彼女たちのハーモニーは素晴らしいんですよね。この5人の声質でしか作り上げられない音色っていうものがあるんです。

 

1996年のファーストアルバム『Spice』が世界で2,300万枚を売り上げ、1997年のセカンドアルバム『Spiceworld』が世界で2,000万枚を売り上げ、順調にきたスパイス・ガールズ。

しかし1998年は彼女たちにとって激動の年となりました。ワールドツアーも大成功に終わり、これからという時にMel BとVictoriaが未婚のまま妊娠。Victoriaのお相手は、皆さんご存知サッカー選手のベッカムですね。その後結婚した二人はたくさんの子供に恵まれ、今も幸せに暮らしております。そして同年、Geriが脱退してしまいました。Geriは元々一番人気が高くて、チャールズ皇太子もメロメロになっていて(笑)ソロでやりたくなったようです。

4人となったスパイス・ガールズが最初に出したシングルは『Good Bye』。「さようなら」というタイトルのその曲は、Geriに宛てたメッセージがたっぷりと込められたバラードでした。イントロの「No no no no」だけでも泣ける。メロディもハーモニーも歌詞も美しく、このシングルを買って私は毎日毎日聴き続けていました。サビの歌詞は、以下の通りです。

Goodbye My Friend
さようなら 私の友達

(I know you’re gone you said you’re gone but I can still feel you here)
あなたが去ったことは分かってるけど あなたは去ってしまったと言うけど 私は今もあなたがここにいるのを感じる

It’s not the end
これは終わりじゃない

(You gotta keep it strong before the pain turns into fear)
痛みが恐怖に変わる前に あなたは心を強く持って

So glad we made it
私たちが成功できて良かった

Time will never change it no no no
だって時間がそれを変えることは 絶対にないから

 

ソロシンガーとなったGeriは、歌唱力は今一歩だけどセクシーさを武器にアイドルの頂点に上り詰めていきました。楽曲にもめぐまれ、ヒットチャートの常連となりました。

そして一方、断トツの歌唱力を誇るMelanie Cもまた本格的なソロ活動に乗り出します。初のソロアルバム『Northern Star』では、ポップなスパイス・ガールズとは全く違うロック路線で勝負しました。Melanie Cは元々、ブライアン・アダムスとのデュエット曲『When You’re Gone』を通してロックが似合うことはすでに知られていたので、自然な流れだったとも言えます。

 

元々Sporty SpiceというニックネームだったMelanie Cは、だんだんとルックスがスポーティーどころかマッチョになっていき、音楽面でもロック、R&B、エレクトロなど多種多様なスタイルを貪欲に取り入れるなど、新境地を開拓していきました。

そしてMelanie Cのアルバムは大ヒットとなり、ソロシンガーとしての道を切り開き始めます。そこから彼女の「脱スパイス・ガールズ」は始まりました。脱退はしないんだけど、精神的にも物理的にもスパイス・ガールズとは距離を置いているというか。テレビでも「スパイス・ガールズはただの趣味だから」と語ってました。

そんなマッチョでクールなMelanie Cのファーストアルバムの中から、代表的な2曲を貼っておきます。2曲目のほうには、TLCのLisa “Left Eye” Lopesがラップでフィーチャリングしています。Left Eyeは残念ながら2002年に交通事故で亡くなってしまいました。

これ以外にもシングルカットがたくさんされて、タイトル曲の『Northern Star』同様、名曲がたくさん収録されているアルバムです。

 

2番目に歌唱力の高いBaby SpiceことEmma Buntonも、ソロ活動を盛んにするようになっていきます。Melanie Cの『Northern Star』と同年の1999年に、Tin Tin Outの『What I Am』にボーカルで参加し、大きな話題を呼びました。これはカバー曲なんですけど、私もこの曲は大好きで、今でも定期的に聴いています。

 

Emmaはこれ以降も定期的にヒット曲を出していて、Melanie Cと同様、ソロシンガーとして活躍の場を広げていっています。Mel Bもソロ曲を出したりはしたけど、結果はあまり振るいませんでした。その代わりタレント活動のほうで芽が出て、今やテレビでは引っ張りだこの存在になっています。Victoriaは言わずもがなベッカム夫人として完全にセレブな人となりました。一般階級の出身なのに(イギリスは階級社会)、貴族のような立ち位置にいます。

Geriが抜けた後4人となったスパイス・ガールズは、このようにそれぞれの道に進みながらも解散はせずに活動を続けました。そして2000年、サードアルバム『Foerever』をリリースします。20代後半となった彼女たちは、イメージもガラリと大人っぽく変えて、脱アイドルといった感じでよりアーティスト性の高い音楽をやるようになりました。

正直スパイス・ガールズらしさがなくなって、アメリカの流行音楽みたいなサウンドになっちゃったけど、私の大好物な電子音もたくさん入ってるし、なかなかおもしろいアルバムではあります。1位も獲得できなかったし、セールスも相当残念な結果にはなったみたいだけど、まあいろんな意味で仕方ないのかなと思います。たぶんちょっと時間が開いてスパイス・ガールズのブランド力も落ちたし、4人になっちゃったし、音楽性もかつての個性がなくなったしね。

 

この後もソロ活動が活発になったのもあって、スパイス・ガールズはとうとう2001年に活動休止してしまいました。解散ではないのですが、再結成の期待はできないというのが多くのファンの見解でした。しかし2007年、短期間限定で再結成したんです! しかも5人全員で! しかもワールドツアーまで行いました!

そもそも再結成は期待できないと思われていた一番の理由が、「脱スパイス・ガールズ」の方針を貫くMelanie Cなんです。彼女は「過去の栄光にとらわれず、ソロシンガーとして前進するのみ」と言い、再結成を渋り続けてきました。Melanie Cのファンとしてソロアルバムも全部集めてる私としては、それもまあ仕方ないなって思っていたのですが、頑なだったMelanie Cがメンバーたちの説得についに折れて再結成が実現することになったんです!

再結成のニュースが世界中に流れたときといったら! あの興奮は今でも忘れられません。BBCの速報か何かで流れているアナウンサーの音声を聴いて震えました。大事件が起こったときのような報道のされ方でした。今思い出しても鳥肌。

30代半ばになったスパイス・ガールズは、大人の女のフェロモンがムンムンです。

 

そして1998年のGeriの脱退から9年ぶりに5人が揃って出したシングルがこちら。『Headlines』というバラード曲です。サブタイトルとなっている「Friendship Never Ends」というのは「友情は決して終わらない」という意味ですが、このフレーズは彼女たちのデビュー曲『Wannabe』のサビに出てくるものなのです。デビュー曲の有名なフレーズをまたここで聴くことができるなんて、本当に粋です。

アルバムは作らなかったのですが、この曲を含む2曲の新曲を入れたベストアルバムをリリースしました。新旧さまざまな曲を網羅できるので、ベストアルバムもなかなかお勧めです。

 

1996年に彗星のごとくイギリスの音楽シーンに現れたスパイス・ガールズは、その登場と共にイギリスの音楽業界の流れを一気にアイドルグループ・ブームに変えました。それ以前にもTake That、Backstreet Boys、Boyzone、Westlifeなどといった男性アイドルグループは台頭していたのですが、スパイス・ガールズによって女性アイドルグループに注目が集まるようになり、男女混合グループなど性別を問わずアイドルグループが次々に量産されるようになりました。

ここまで量産されてしまうと、ひとつひとつのグループの人気も継続しません。流行に乗ってるだけのファンは移り気な人が多いので、次々に出てくる新しいグループに流れていきます。結局そんなことを繰り返しながら、アイドルグループ・ブームは終わりを迎えることとなりました。元々ロックやエレクトロが流行しがちな国ですので、そっちに戻っていった感じですね。とは言え、本当に実力のあるグループは、今も活躍してたり、再結成したり、ソロで売れてたりしています。

今の20代半ば~40代半ばくらいまでの多くのイギリス人、ヨーロッパ人、アメリカ人にとっては、夢中になった思い出がいっぱい詰まった特別なグループだと思います。一世風靡をしたアイドルが、事実上の解散をしてから10年が経った今でも、5人全員が現在進行形でそれぞれの分野で活躍しているというのはなかなか無いことだと思います。これからも5人の活躍を祈っています。

 


Spice (1996年)

 


Spiceworld (1997年)

 


Foever (2001年)

 


Greatest Hits (DVD付) (2007年)

 


Sakiko Torii
About Sakiko Torii
BLOOMINT MUSICの運営者。イギリスでの音楽留学経験を生かした音楽的に深みのある記事が売り。独自スタイルのライブ企画、楽曲リリースのコーディネート、ライター活動、各種メディア出演など、韓国ヒップホップにおいて多方面に活躍中。著書に『ヒップホップコリア』。別名ヴィヴィアン。
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