Sheryl Crow (シェリル・クロウ)

Written By Sakiko Torii

あれはまだ私が10代だった頃の話です。洋楽に詳しい10歳くらい年上の方と音楽談義をしていた時、私がいかにAlanis Morissette(アラニス・モリセット)を敬愛しているかについて暑苦しく語ったところ、「アラニスが好きなら、この人も好みなんじゃない?」ってことで教えていただいたのがSheryl Crow(シェリル・クロウ)でした。

シェリル・クロウという名前だけは聞いたことのあった私は、グラミー賞で彼女がいくつか受賞していたことを思い出し、ひとまず録画ビデオを引っ張り出してチェックしました。まだインターネットが普及していなかった当時、私はグラミー賞を一番の情報源にしていたのです。その時に観た『All I Wanna Do』のミュージックビデオがなかなか良かったので、とりあえず1993年にリリースされたファーストアルバム『Tuesday Night Music Club』を買って聴いてみることに。


Tuesday Night Music Club

 

そして、はい! ハマった!

ブルースの要素が入った古き良きロックンロール。60年代のサウンドというか。モータウン的な。アメリカ的な。そしてカントリーの要素もあったりして、若かりし私はそれまで味わったことのない新鮮さを感じました。彼女だけが出すことのできるサウンドにどっぷりとハマり、日本で某グループがどう聴いてもシェリル・クロウのパクリみたいな音楽をやっていた時は、こちらも若さが故に激しく憤慨したものです。

そして1996年にリリースされたセカンドアルバム『Sheryl Crow』は、リリースから15年くらい経った今でもしょっちゅう聴いていて、たぶん普通に500回以上は聴いたと思います。


Sheryl Crow

 

何百回聴いても1ミリも飽きないし、何十年経っても1ミリも色褪せない。ファーストアルバムよりも断然ハマりました。それ以降、私の中では長きに渡ってファーストアルバムとセカンドアルバムの間に越えられない壁があったんだけど(それくらいセカンドが好きだったって意味)、いい大人になってから改めて聴いてみると、その壁は越えられる程度の高さにまで縮まった気がします。

これ、音楽好きの「あるある」だと思うんですけど、若い頃はAとBのアルバムだと断然Aが好きだったのに、年を取るとBのほうが好きになるっていう。典型的なのがビートルズの『赤盤』と『青盤』で、私も子供の頃は断然『赤盤』のほうが好きだったんだけど、大人になったらまんまと『青盤』のほうが好きになりました。とは言っても、シェリル・クロウの場合はやっぱり今でもセカンドのほうが好きなんだけどね。ただ、好みって年齢と共に変わるよねって話です。

では、ファーストとセカンドの中から特に好きな曲を紹介したいと思います。まずはファーストアルバムの『Run, Baby, Run』から。ギターサウンド、コード進行、メロディのブルーノート、すべてにおいて非常にブルージーな一曲です。そしてこの曲はシェリル・クロウが初めて出したアルバムの1曲目を飾っているため、シェリル・クロウというアーティストの導入のようなものでもあるのです。

その導入となる曲から何が分かるか? それは、シェリル・クロウというアーティストの音楽的才能、歌唱力、そして類い稀なる作詞の才能です。「彼女は1963年11月に生まれた。オルダス・ハクスリーが死んだ日に」というフレーズから始まるこの歌詞の詳しい解説は、こちらの方の素晴らしい分析をご覧ください → N郎♪’s Cafe

 

ところでシェリル・クロウの書く歌詞には、「彼女」という第三者が主役になっていることが多々あります。シェリル・クロウ自身がモデルになっているのか、完全なるフィクションなのかは分かりませんが、三人称を主人公にすることで、自伝というよりは短編小説を読んでいるような気になる部分があります。

もちろん主人公が一人称の曲のほうが多いのですが、その場合でもウィリアムとかマリーとかキャサリンとか、いろんな名前が登場人物として出てきます。いずれにせよ、ストーリー仕立ての作詞がうまいんです。自分の気持ちを表現したり、テーマに基づく持論を展開したり……そういう歌詞も好きですが、シェリル・クロウや Stereophonics のKelly Jonesのように、歌詞を読んでいると頭の中で情景が浮かぶような、ひとつの短編小説を読ませるような歌詞のほうが好きだったりします。そういえばビートルズもそういう感じでしたよね。

続いてファーストアルバムの中からもう1曲。この記事の冒頭で触れた『All I Wanna Do』です。軽快なリズムが印象的な曲で、ギロとかパーカッション使いが絶妙です。コード進行は至ってシンプルで、ヴァースとコーラスで3つのコードを繰り返すだけ、ブリッジでは2つのコードを繰り返すだけです。だから私は洋楽が好きなんですよ。J-POPはコード進行が無駄に複雑な曲が多くて、正直とっ散らかってる印象です。

で、この曲もやはり歌詞がかっこいいんです。曲が誕生した背景も非常に興味深いです。詳しい解説は、こちらの方の素晴らしい記事をご覧ください(どこまでも人任せ)→ 洋楽雑記帖 A Notebook Of Western Music

 

ファーストアルバムで他に好きな曲は、『Strong Enough』『Leaving Las Vegas』『I Shall Believe』『Can’t Cry Anymore』『The Na-Na Song』あたりですかね。ってか全曲好きなんだけど、強いて言えばこんな感じです。ってかほぼ全曲挙げちゃってますけどね。

さらにここから絞るとしたら、『Strong Enough』『Leaving Las Vegas』『Can’t Cry Anymore』の3曲でしょうか。特に『Strong Enough』は本格的にシェリル・クロウにハマるきっかけとなった曲です。

 

では続いてセカンドアルバムの中から特に好きな曲をご紹介しましょう。まずは洋楽好きなら誰でも聴いたことがありそうな『If It Makes You Happy』と『Everyday Is A Winding Road』の2曲ですかね。どちらもノリのいい曲で、コンサートでも大いに盛り上がります。

『If It Makes You Happy』のほうは、特にサビは聴いたことがある人が多そう。非常に分かりやすいロックンロールです。『Everyday Is A Winding Road』もかなり世界的にヒットしたので、どこかしらで聴いたことがあるんじゃないかしら?

 

私がセカンドアルバムで一番好きな曲は(っていうか、多分シェリル・クロウの中で一番好きな曲でもある)、『Love is a good thing』という曲です。まさに「シェリル・クロウらしいサウンド」と言える曲で、サウンドのみならずボーカルでも彼女だけが出せる持ち味を存分に発揮しています。このボーカルを聴くと、「教科書通りに歌がうまい歌手」の歌が残念に感じます。声の出し方、止め方、上げ方、下げ方、すべてが完璧。

 

聴いていただくと何となく分かると思うんですけど、シェリル・クロウの声質って男性の声との相性がめちゃくちゃいいんですよね。彼女の作り出すサウンドも、彼女自身の声もとても「乾いて」いるからだと思うのですが。だからなのか知らないけど、彼女の曲には男性がバッキング・ボーカルをやってるものが多いです。

でもたまに女性もハモってます。私の大好きなDixie Chicksとコラボした曲もあります。あと、これは結構驚きですが、女優のグィネス・パルトローがバッキング・ボーカルを務めた曲もあるんです。何でもグィネス・パルトローがシェリル・クロウの大ファンで、当時グィネス・パルトローが交際していたブラッド・ピットがシェリル・クロウに頼んでバッキング・ボーカルに起用したんだそうです(笑)

あと、セカンドアルバムに入ってる『Home』っていう曲の歌詞で、「17歳だった頃の私があなたの中に何を見ていたのか、32歳になった今は思い出せない」という歌詞があるんです。私がこれを初めて聴いたのが19歳の時だったので、「わー、32歳って遠いな!」なんて思ったものです。シェリル・クロウという1人の人間の歴史の重みを感じたというか。そして今、私自身もそれに負けない人生の歴史を積み重ねてしまいました。

時間ってこうやって残酷なくらいに躊躇なく過ぎていくけど、19歳の時には共感できなかったものが今は分かるようになったという点では非常に感慨深いです。私という1人の人間の歴史の重み。あの頃の自分には想像もつかなかった歴史を積んできています。

 

続いて1998年にリリースされたサードアルバムを簡単にご紹介します。私は失礼ながら、シェリル・クロウのピークはセカンドアルバムだったと思ってるんですけど、このサードアルバム『The Globe Sessions』もかっこいい曲がたくさん入っていてお勧めです。

ちなみにシェリル・クロウは、このアルバムの直後から急にマッチョ化しました。「マッチョ的」とか「マッチョ風」とかじゃなくて、リアルにムキムキボディになっていました。この次のアルバムの頃には女性らしいスリムボディになっていて、ずいぶん忙しいなって思ったりしました。


The Globe Sessions

 

シェリル・クロウはアルバムのリパッケージ盤を出すことが多く、実はこの記事の上の方に貼ったファーストアルバムのジャケットも、このサードアルバムのジャケットも、私が持っているものとは違います。出す国ごとにもちょっと違ったり、再生産の時にデザインがちょっと変わったりなど、肉体だけでなくアルバムのジャケットも変化が忙しいんです。

このアルバムの前後にシングルで『Sweet Child o’ Mine』という曲がリリースされたんだけど、この曲はGuns N’ Rosesのカヴァーで、オリジナルに負けないくらいロックに叫んでて最高です。当初はアルバムに収録されてなかったけど、日本盤とか最新盤には収録されているみたい。私は律儀にシングルCDも持ってますが、シングルCDって時点で時代を感じますね。

サードアルバムの中でお気に入りの曲は、こちらの『There Goes the Neighborhood』です。ファーストやセカンドに比べると、サード以降は若干おとなしめの曲が増えたり、若干「シェリル・クロウらしさ」というのが薄れて個性がなくなっていくのですが、この曲は彼女らしい軽快でザックリとしたサウンドが楽しめて好きです。

 

ムキムキボディから女性らしいスリムボディになった4枚目のアルバム『C’mon, C’mon』は、日本では商業的に一番成功したアルバムなのではないかと思います。世界的には恐らくファーストとセカンドのほうが売れたと思うのですが、日本では『C’mon, C’mon』に収録されている『Soak Up The Sun』という曲がやたら掛かっていた気がします。


C’mon, C’mon

 

『Soak Up The Sun』は知っている人も多いと思うし、個人的にそこまで好きな曲でもないので、ここでは割愛させていただきます。代わりに『Steve McQueen』をご紹介します。

この曲ではシェリル・クロウらしい軽快なサウンドが健在ですが、ちょっとサウンドが綺麗すぎるところが惜しい気がします。いや、サウンドが綺麗なのは良いことなんでしょうけど、私がシェリル・クロウに求めているのはザックリとした荒い音なんですよね。ボーカルもどこか荒さが残っていて欲しいのですが、このアルバムは全体的に音がクリアでクリーンで、私としては物足りないのです。でも名曲もいっぱい詰まっていて、分かりやすいポップスが好きな人には向いているアルバムじゃないかと思います。

 

この4枚目のアルバムに、例のグィネス・パルトローが参加している曲が入っています。あとDixie Chicksと、レニー・クラヴィッツと、ドン・ヘンリーなんかも参加しています。豪華すぎて大変なことになっていますね。

その後も定期的にアルバムをリリースし続けているシェリル・クロウですが、あくまで私の主観で語らせていただくと、やはりセカンドアルバムをピークにつまらなくなっているような気がします。もちろん人によっては新しい作品のほうが好きって思うこともあるでしょうし、音楽の好みは人それぞれなので正解なんてものはありません。

最初の2枚の紹介に比べるとかなりテンション低めになっていますが(笑)、そんな最近の作品の中でもこちらの曲は大好きです。『Shine Over Babylon』という曲で、ファーストアルバムに原点回帰をしたような印象を受けます。コンサートに行った時、天に向けて指を指しながらこの曲のサビを歌う姿に鳥肌が立ちました。

 

シェリル・クロウのコンサートも、何回も行きました。生歌、ヤバイです。すでに結構な年齢なんですけど、ボーカルが半端なくパワフルで圧倒されます。

ちなみにシェリル・クロウって結構な遅咲きなんです。30歳近い頃に一度デビューの話があったんだけど、大衆性に欠けるからということで話が流れたそうです。アメリカも日本と同じで、商業性(大衆性)が求められますからね。商業性がなければ作品を世に出すことができない。最近でこそインターネットの進化によって自分のやりたい音楽を世の中に発表する機会が得られてるけど、昔のミュージシャンにとっては必ずブチ当たった壁だと思います。

そして31歳でようやくデビューできたというわけです。でも、じゃあ20代の頃はまったく活躍できてなかったのかというと、全然そんなことない。音楽教師をしたり、スティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソンのツアーにバッキング・ボーカルで参加したり、エリック・クラプトンに曲を提供したり、裏方ではあるけど大活躍していました。マクドナルドやトヨタ自動車のコマーシャル・ソングも作ったりとか。マクドナルドのコマーシャルだけで4万ドル(約400万円)を稼いだっていう話です。

2011年現在は49歳で、一番上に貼った写真とか『Shine Over Babylon』のライブ映像とかは、ここ数年のものです。年齢を感じさせない美しさに驚かされますが、実は数年前に乳ガンになったこともあり、本当に苦労をされたと思うんです。いつまでも元気で、素晴らしいステージをこれからもずっと見せてください。

最後に入門編として、ベストアルバムのリンクを貼っておきます。この記事の中で動画を貼って紹介した『All I Wanna Do』『Everyday Is A Winding Road』『Strong Enough』『If It Makes You Happy』『Run, Baby, Run』『Home』『There Goes The Neighborhood』『I Shall Believe』が収録されています。記事の中で曲名だけ登場した『Leaving Las Vegas』と『Soak Up The Sun』も入っています。お得!


Very Best of Sheryl Crow

 

writerSakiko Torii

BLOOMINT MUSICの創設者および編集長。韓国ヒップホップ・キュレーターとして執筆、ライヴ主催、音源/MV制作サポート、メディア出演など多方面に活躍中。イギリスに音楽留学していた本格派。著書に『ヒップホップコリア』。

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